小学校とナースさん
今日は誰かが来るとは聞いていない。
だからか分からないけど、身体がとてつもなく重い。
憂鬱な体を無理やり起こし、外に散歩しに行くことにした。
外と言っても病院の周りをただ歩くだけなんだけどね。
病院の近くに公園があるんだけど、そこで小学校でよく話していた友達と遊んでいたことを思い出したんだ。
今は県外で働いているって聞いたけど、元気にしているのかな。
ただ、名前を思い出せない。
よく遊具を使った鬼ごっこで遊んでいたけど、その時はよくこけて頭やお腹をぶつけたりして、親に怒られてたっけ。
∵
「今度は浅木が鬼な!よーいどん」
元気に満ち溢れている声が公園に響く。
僕は十秒数えて――を追う。
――は、勢いあまり鉄の素材の床で滑って地面に落ちる。
僕も――を追うように落ちた。
「いててて、大丈夫か?」
「うん、何とかね、――は?」
「俺も問題ないぜ。でもひとまず休憩しような」
――は、苦笑い交じりに言っていた。
今となっては強がっていたんだと分かるが当時の僕には素直に「大丈夫」という言葉を受け入れていた。
ベンチに座って何気ない会話をする。
「中学校は別々になるな」
「そうだね……」
「寂しいか?」
「べ、別に――と別れたって寂しくなんかは……」
「俺は寂しい。お前が気に入っているからな」
僕は嬉しかった。
特別な何かは無く、友人として、親友として、ただ嬉しい言葉だった。
だから……。
「嘘、僕も寂しい」
「分かってるよ。ってやっべ、俺は帰るわ!じゃあな」
――は時計を見るなり走り去っていった。
僕も家に帰る事にした。
家に帰ると案の定、親父に叱られ真っ先にお風呂に入れられた。
お湯がかすり傷にしみた。
∵
結局名前を思い出せなかったな……。
思い出に浸っている間に時計の針は正午をさしていた。
日記のような手紙にも何も書けてない状況だった。
そこに丁度ナースさんがご飯を持ってきてくれた。
「浅木さん、はいご飯。あと先生がご飯食べたら来てくれって言っていましたよ」
「分かりました。控室でよかったですよね?」
ナースさんは首を縦に振り部屋を出て行った。
先生が言うには、僕の病気は悪化もしてなければ好転もしていないそうだ。
僕は1月31日に死ぬんだってさ。
あと13日だ。
家族にはもう伝えよう。結愛には変わらず黙っておこう。
死ぬことは怖いけど、満足感が強いから変に足掻いたりしたいという欲はない。
死ぬときは少ない後悔で済むかもしれない。
駄目だね。ハッキリ『この日』に死ぬって分かっちゃうと死ぬことしか考えられない。
もっと結愛と話したい。
ずっと一緒に居たいな……。
手紙を書くことを止め、ぼーっとしているとまたナースさんが入ってきた。
「浅木くん、今大丈夫かな?」
「はい、大丈夫ですけど」
「時間空いたし、話聞きたいなと思ってね」
このナースさんは、坂下いさぎさん。ナースさんの中で一番お世話になっている人だと思う。
「またですか?いいですけど」
「面倒くさいって顔しないしない、ボーリングはどうだった?」
「僕にはセンスが無いので、全然ですよ」
「えー、上手そうなのにね~。でも楽しかった?」
「それなりには」
「なら良し!何よりも第一に楽しむことだよ。浅木くんの場合は尚更ね」
「……」
坂下さんはいつも僕を気遣ってくれる優しい人だ。
こんな何気ない会話も、僕を元気づけるために違いない。
じゃないと入院している人が沢山いるのに、わざわざ僕のところに話になんて来ないはずだ。
それに時間が空いたというのも嘘じゃないかと僕は思っている。
僕は坂下さんの優しさに甘えて知らないフリをする。
後で日記風の手紙にでも書いておこう。
読んだ時には坂下さんは赤面してるのかな?
面白そうだけど、実際には見ることは出来ないんだろうな。
「じゃあ、そろそろ仕事に戻るわ。じゃあね」
坂下さんは手を振りながら仕事に戻った。




