結んだ愛
私は会社から帰ると、リビングで両親が大声で話していた。
私は邪魔をしてはいけないと思って階段を上る。
「希くんは、必死だったじゃない!」
私の耳に母さんの声が入ってきた。
何で希の名前が聞こえるの。
私は階段を下りて、リビングのドアに耳を当てた。
「結愛に傷をつけたのは同じだろう」
「でも、それは理由があったじゃない」
「あのナースの話を信じるのか?あのナースの話を信じて結愛を病院へ送れってのか」
「そうよ、希くんは今日の夜まで生きていればいい方だって。理不尽な病気にかかってるって、わざわざ一度来たあのナースさんが一人だけで来たじゃない。本気じゃないとあれだけ必死になれないわよ」
「はぁ――そうかもな」
「何でそれほど希くんを毛嫌いしているの?それに何でナースさんに『結愛を行かせる』なんて嘘を吐いたのよ」
「ああしないと、帰らなかっただろ」
何の話をしているの?
希が病気?今夜生きていればいい方?
もう夜じゃない。これって本当に希の話なの。
私は我慢ができなくて、リビングのドアを開いた。
「結愛……」
「希が死ぬってどういう事?」
私はお母さんからすべてを聞いた。お父さんは何も話さないどころか、お母さんの真逆の事ばかりを言う。
私はお母さんの信じたくない話を信じた。
急いで車に乗って病院へ走らせた。
ここの近くにある病院は一つしかない。
お願い……悪い夢であって…………。
私は運転中もずっと願っていた。
喧嘩で永遠の別れ何て絶対いや。
何で私は意地なんか張ってメールを返さなかったんだろう。
何で実の、付き合うか。なんか言葉に惑わされたんだろう。
病院に着き、すぐに降りて希の部屋番号を聞いた。
階段を駆け上がって病室に飛び込んだ。
「…………結愛ちゃん」
「希のお母さん?」
泣いていた。そこにいる5人全員が泣いていた。
「希は?」
「坂下さんから聞いたけど、希は結愛ちゃんに話してなかったのね。希なりの気遣いだったと思うの。だから怒らないであげて」
「いつから……いつから知っていたんですか」
「希が、彼女が出来たって叫んでた日よりも前よね」
「あぁ、病気のことを知って目が死んでいた。そこで結愛ちゃんが入ってきてね、目に光が戻ったんだよ」
じゃあ病気の事を隠して付き合っていたの……。
ずっといたのに何で気づいてあげられなかったのかな。
こんな彼女……いやだったよね。
「ごめんね……。気づけなくて……病気に気づいてくれない私なんて……嫌いだったよね……なのに私は――」
もう、何もかも終わらせたい。
私はその一心で階段を駆け上がった。
「結愛ちゃん!待ちなさい!」
「坂下さん、これもお願いします」
坂下は白色のワンピースにジーンズのジャケットと麦わら帽子が綺麗に包まれた袋を抱えて結愛の後ろを追った。
――駄目よ、結愛ちゃん。あなたが死んだら浅木くんは一番不幸になっちゃうから。せめてこの手紙は読んであげて、そして幸せになってあげないさい。
結愛はそんな坂下の願いには気づかず、フェンスの向こう側に立っていた。
下を見ると足がくすむほど高い。
背中を向けて飛び降りる決意をした。
体重を全て後ろに掛けた瞬間に、屋上の扉が開いた。
「結愛ちゃん!なにしてるの!」
結愛は声のする方を向いた。
……あ、ナースさんだ。
最初はそんな程度だった。でも手に持っているものが目に入ってしまった。
……あの服、望が……、まだ持っててくれたんだ。梱包までして女の子かよ。
「でも、遅いよ……馬鹿」
結愛は、声と数滴の滴を屋上に残しながら、途中、ポケットから白色の生地にポピーの刺繍が入ったハンカチが舞いながら、鈍い音を病院の駐車場に響かせた。




