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一月の手紙  作者: 紗厘
最終章 ~幸せをつかむためみ~
23/28

既読

 『おーい』これで結愛(ゆあ)に送るメールも63件目の送信だ。

 これだけ送れば嫌でも開くのではないだろうか。


 返信も来なければそもそも既読にもならない。


 時間はある。一息置くために坂下さんを呼んだ。


 1分もしないうちに来てくれた。


「明日死んじゃうじゃないですか」


「浅木くん、そんな簡単に言うものではないよ」


「ごめんなさい」


「……」


「……」


「ん?声出るようになったんだ」


 言われて気付いた。無意識のうちに喋れていたんだ。

 これは素直に嬉しい。


「……無意識でした」


「目が本気で驚いているよ、でもよかった」


「ありがとうございます」


「ううん、それでどうしたの?」


「何時ごろに死ぬか分かりますか?」


「う、ゴホッゲホッ……。だからそんなノリで聞くものじゃないでしょ」


「ごめんなさい、でも気になっちゃって」


 坂下(さかした)さんは僕の瞳をじっと見つめて、ゆっくりと大きなため息を吐いた。


「そこまで正確な数字は分からないわ、でも夜まで持てばいい方でしょうね」


「じゃあ、明日の朝、僕の家族と先生と坂下さんでご飯に行きませんか」


 きょとんとした目で僕を見つめる。

 なぜか時計を見て、席を外すね。と言って病室を出て行った。


 坂下さんは先生を連れて戻ってきた。


「坂下から話は聞いたけど、僕は明日は休みみたいなものだ。別にいける事は行けるが私なんかが呼ばれてもいいのかい?」


「逆に来てほしいんです。お世話になりましたし」


 先生と坂下さんは目を合わせて頷きあう。


「分かった。家族には私から連絡しておくよ。えっと、彼女さんいたよね」


「いますけど、明日は仕事が忙しくらしくて……」


「そうか、今日会いに行けばいいのに」


「このことを話せてなくて……」


「確かに話ずらい内容だからね……。じゃあ僕たちを入れてひとまず6人、あわよくば7人だね」


「……はい」


 先生は丁寧にメモまで取り、明日また来る。と言って仕事に戻った。


「浅木くん、何か不安な事でもある?」


「急に何ですか?」


「なんかね、毎日のように話していると分かるものなんだよ。病気以外に不安な事があるんじゃないのかなって」


 隠しても問題ない内容だが、あと一度会うためなら猫の手も借りたい。

 最初は躊躇(ちゅうちょ)したが、本音の悩みが口から流れるように出て行った。


「そんなことがあったのね、彼女の両親さんの気持ちも分かるけど、事実起きてしまっているからね……」


「何か手助けしてはくれませんか」


 顎に手を当て考える。

 何かを探すように坂下(さかした)さんは周りを見渡す。


「無理なら別にいいですけど……」


「いや……すこし待ってて」


 また坂下さんは病室を出て行った。


 待っている間、何もすることが無い。

 スマホを見ても、返信も無ければ既読はついている。


 ……ん?既読!


 1テンポ置いて改めて理解した。既読も付いていないものとばかり思っていたからだ。


 この機を逃すまいとばかりに、メールを送る。

 既読が付いた。

 今のうちに僕の事を話そうと文字を打っていると、結愛(ゆあ)から送られてきた。


 ――「バイバイ」


 その一言だけだった。


「なんだよ『バイバイ』って……何のつもりだよ」


 丁度良く坂下さんが病室に入ってきてくれた。


「私の仕事変わってもらったから、お昼ついでに彼女さんのところに――」


「今すぐ行かせてください、雨の日に拾ってくれた場所に連れて行ってください」


 僕は坂下さんの言葉を遮るように言った。


「良く分からないけど、急ぎなんだね。分かった」


 すぐに車を出してくれて、僕は後部座席に乗り込む。


「それで?なんで急いでいるの?」


 信号で止まるところを狙って、スマホの画面を見せた。


「今の状況から考えると、両親から関わるなと言われて素直に承諾したか、喧嘩からの寂しさで他の男に変わったか……どちらにせよ都合が悪いね」


 それは僕自身でも考えた二つだった。

 自分が招いてしまった結果に変わりない以上、僕自身がどうにかしなきゃダメなんだ。


「そういえば、なんで僕があそこにいるって分かったんですか?」


 どこに行くかも伝えていないのに、何故結愛(ゆあ)の家の前に居たと知っていたのか分からなかった。

 朝から気になっていた。


「あれは偶然だよ。家出したら大体ね、公園かコンビニにいるって聞いあことがあるからコンビニに向かう途中で見つけたんだ」


「そんな偶然あるんですね。って僕は家出扱いですか」


「似たような物でしょ」


「別にそれでいいですけど……」


 反論してもよく分からない方へ話がそれそうだから話を変える。


結愛(ゆあ)の両親は僕に会わせてくれますかね」


 もう結愛と関わるな。その言葉が引っかかり不安で仕方が無かった。

 そんな不安を消すように坂下(さかした)さんは笑って言う。


「なんのためにこのナース姿のままで出掛けていると思っているの?」


 坂下さんの格好は、ナース姿にコートを羽織っているだけだった。

 申し訳ないけど、言われるまで気が付かなかった。


「まさか、浅木(あさぎ)くんの趣味に合わせてるとでも思ったかい?」


「僕はナース服には興味ありませんから。断然で制服派です!……あ――」


「ふふ……」


「な、何言わせるんですか」


「私は何も聞いていないよ、ただ浅木君が勝手に語るに落ちただけだろ?」


「んん……」


 坂下さんは笑い、僕はふてて窓の外を見つめる。


「ちなみに、もう着くからしっかり心の準備をしときなよ」


 僕は目を閉じて覚悟を決めた。

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