悪夢
あれ、悟が泣いてる。親父も母さんも泣いてる。
どうしたの?と聞こうとしても声が出なかった。
治らないのかもしれないな。
立ち上がり、悟の頭を撫でようとした。でも僕は動きを止めてしまった。
僕の手が半透明で透けていた。
僕自身の状況、周りの反応からして理解できた。
僕は死んだんだ。
結局、結愛には何も伝えないまま、僕は死んで……しまったんだ……。
昨日無理したせいで、寿命が縮まったのかもしれない。
我ながら馬鹿だけど、僕らしくもあって笑みがこぼれた。
僕が死んだだけで、こんなにも悲しんでくれる人が一人でもいてくれたなら僕はこんなにも幸せなんだ、
僕は病室を出て、外に出てみる。
歩くのではなく浮遊状態の移動で楽しくてついつい遊んでしまう。
「幽霊って信じてなかったけど、自分がなっちゃったら信じるしかないな」
天井と床をすり抜けて屋上まで飛んだ。
今まで無い高さで街を見渡すだけで、感動ものだった。
死んでみんな悲しんでいるのに、僕は何しているのだろうか。
突然教会の鐘が街に響き渡る。
胸騒ぎが収まらない。見に行きたくない一面真実を確かめたくなった。
好奇心なる物が僕の背中を押す。
嫌な予感は的中した。
スーツ姿の実の隣に白色のベールをまとった結愛が立っていた。
干渉も出来るはずも無く、叫びたくても声が出ないし触れる事すらできない。
幽霊の時ぐらい声もどれよ……。
不意に見えた結愛の目から涙が垂れているように見えた。
「浅木くん、はい起きて。先生が様子を見たいって言ってますから」
聞きなれた声で目を開ける。
「嫌な夢でも見ましたか?」
坂下さんが僕にティッシュを渡してくれた。
悪い夢?……さっきまでのは夢だったのか。
安堵の息が漏れる。
ティッシュで涙を拭いて立ち上がる。
「…………」
やっぱり声が出なかった。
これだけは夢と現実も同じかと、溜息が出る。
白紙の紙とペンをもって、声が出ない。と紙に書き坂下さんに渡す。
「次から次へと残酷な事ばかりね……この紙も先生に渡しなさい」
僕は首を縦に振って先生のいる診察室に入って行った。
「希くん、おはよう。昨日はびっくりしたよ」
先生は笑ってごまかしてくれているけど、実際はかなり苦労したと思うと申し訳なさがあふれる。
まず坂下さんにも渡した紙を先生に渡した。
「喉の調子を見るから口を開いて」
先生は開いた口をライトで照らす。
胸をなでおろしているように見えた。
「昨日雨に打たれていた影響だろうね。風邪のようなものだ、明日には治っていると思うよ」
声が出せないので動きで感謝を表現する。
手を合わせてお辞儀をする。
それからは混蔵の音を聞かれ、血を抜かれて病室に戻る。
ずっと窓の外を眺める。
昨日の雨は止み、群青色の空が顔を出している。薄い雲からわずかながら太陽の光が見える。
左目の包帯を外しても、何も見えない。
先生も治らないと言っていたからもう諦めるしかないのかもしれない。
そこに丁度、坂下さんが入ってくる。
「左目は見えないでしょ。包帯貸して、止めてあげるから」
僕は軽く会釈をして、包帯を渡した。
「先生は声の事なんて言ってた?」
僕は紙をポケットから取り出して、文字を書いて坂下さんに見せる。
「そっか。ま、あの雨にうたれていたんだがら仕方ないね。でも治るならよかったね」
僕は大きな動きで頷いた。
「はい、包帯巻けたよ。それで検査の結果から言うね」
「……」
「余命は変わらず、今日を含めて2日。身体自体は健康に近い。普段なら喜べることなんだけど、健康体なのに何で死んじゃう病気なんかあるんだろうね」
僕は首を傾げた。だって分かるわけが無いんだから。そもそも知識が無いのに「これはこうだから」などと言えたら怖いだけだ。
「それもそうね、今日はどこか遊びに行く予定あるの?」
僕は首を横に振った。
「そっか、何かあったらすぐに呼んでね」
病室から出ていく坂下さんの背中を目で追う。
ドアが閉まることを確認して、日記風の手紙を書くことにした。




