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一月の手紙  作者: 紗厘
第3章 ~独り~
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雨水に隠れる涙

「そんな話を信じろと?」


「別に信じてほしくて話したんじゃありません。早く結愛に伝えたいだけなんです」


「そんな余計に結愛を悲しまるような事を……もう一切合切結愛に関わるな」


「そんな……」


「母さん、玄関まで送ってあげなさい」


「いいです。一人で出ますから」


 結愛の両親には失望した。ここまで冷酷だったとは思わなかった。

 でもそれは僕にも言える事なのかもしれない。

 辛い真実を隠して結愛には伝えなかったんだから。


 結愛の職場に向かおうと思ったが生憎場所も知らない。家の前で待つことにした。

 電信柱に寄りかかるように座っていると頭に滴が垂れてきた。

 それは次第に強くなり、髪は濡れてまとまり、服は肌に引っ付いている。


 そこにとても眩しい光が近づいてきた。


「希くん!早く乗りなさい」


 坂下さんだった。

 

 病室の見回りで僕がいないから探し回っていたらしい。

 渡されたバスタオルは髪を拭くわけでもなく、ずっと頭に乗っかっていた。


(のぞみ)くんいくら何でもそんなことしたら余命がまた……」


「……」


 僕には何かが聞こえる程度で話しかけられている感覚は無かった。

 声を出したせいで喉が痛いし、もう何もできない気がした。

 

 結愛(ゆあ)(みのる)と付き合う事になっても、結婚することになっても、その時には僕はいないんだ。だったら別に僕が首を突っ込むような話じゃない……――。


 何を考えているんだ僕は――!これこそ、彼氏失格じゃないか。


 くそぉ……。


 僕の涙は濡れた雨水と混ざり合った。


 病院に戻ると、お風呂場に入れられた。

 雨でベタついた髪のままでは気持ちも悪いので、丁度よかった。

 決して広いとは言えない浴室も、どことなく結愛の家の風呂場を思い出した。

 何故ここまで結愛の事を考えてしまうのだろうか。


 後悔だけは少なく生きていくつもりだったのに、こんなの後悔まみれじゃないか……。


 出しっぱなしのシャワーを止めて、湯船に浸かる。


 神様、いるんだったら奇跡を起こしてくれよ。

 結愛とまた一緒に話させてくれよ。

 また笑いあいたいんだよ。

 まだ死にたくないよ。


「神様のばかぁ、俺だけじゃなくて結愛まで酷い目にあわせるんじゃねーよ。いくら何でも酷すぎるだろぉ」


 風呂場には我慢しきれなかった僕の鳴き声がひそかに響いていた。


 どうすればいいのか僕にはもう分からない。それでもこのまま死ぬわけには絶対にいかない。


 どうにかして結愛だけでも、僕たちにとってハッピーエンドにしてあげたいんだ。

 そしていい人を見つけて、僕の事なんか忘れて、幸せに家庭をもって過ごしてほしい。


 これが僕の最後の願いだ。


「浅木くん、なんでのぼせるまでお風呂に浸かっているの」


「……すいません」


「なかなか出てこないと思ったら、顔真っ赤にしてグターってしてるし」


「……ごめんなさい」


「もう、あと少し大事にしなさいよ」


「……――」


 あれ?声が出ない……。


「はあ、今日は遅いから早く寝なさい。おやすみなさい」


「……」


 僕は坂下さんをずっと見つめていたが、気づいてくれなかった。

 叫んだせいで一時的なものかもしれないし、今日はもう寝てしまおう。


 明日はいい日になりますように……。

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