雨水に隠れる涙
「そんな話を信じろと?」
「別に信じてほしくて話したんじゃありません。早く結愛に伝えたいだけなんです」
「そんな余計に結愛を悲しまるような事を……もう一切合切結愛に関わるな」
「そんな……」
「母さん、玄関まで送ってあげなさい」
「いいです。一人で出ますから」
結愛の両親には失望した。ここまで冷酷だったとは思わなかった。
でもそれは僕にも言える事なのかもしれない。
辛い真実を隠して結愛には伝えなかったんだから。
結愛の職場に向かおうと思ったが生憎場所も知らない。家の前で待つことにした。
電信柱に寄りかかるように座っていると頭に滴が垂れてきた。
それは次第に強くなり、髪は濡れてまとまり、服は肌に引っ付いている。
そこにとても眩しい光が近づいてきた。
「希くん!早く乗りなさい」
坂下さんだった。
病室の見回りで僕がいないから探し回っていたらしい。
渡されたバスタオルは髪を拭くわけでもなく、ずっと頭に乗っかっていた。
「希くんいくら何でもそんなことしたら余命がまた……」
「……」
僕には何かが聞こえる程度で話しかけられている感覚は無かった。
声を出したせいで喉が痛いし、もう何もできない気がした。
結愛が実と付き合う事になっても、結婚することになっても、その時には僕はいないんだ。だったら別に僕が首を突っ込むような話じゃない……――。
何を考えているんだ僕は――!これこそ、彼氏失格じゃないか。
くそぉ……。
僕の涙は濡れた雨水と混ざり合った。
病院に戻ると、お風呂場に入れられた。
雨でベタついた髪のままでは気持ちも悪いので、丁度よかった。
決して広いとは言えない浴室も、どことなく結愛の家の風呂場を思い出した。
何故ここまで結愛の事を考えてしまうのだろうか。
後悔だけは少なく生きていくつもりだったのに、こんなの後悔まみれじゃないか……。
出しっぱなしのシャワーを止めて、湯船に浸かる。
神様、いるんだったら奇跡を起こしてくれよ。
結愛とまた一緒に話させてくれよ。
また笑いあいたいんだよ。
まだ死にたくないよ。
「神様のばかぁ、俺だけじゃなくて結愛まで酷い目にあわせるんじゃねーよ。いくら何でも酷すぎるだろぉ」
風呂場には我慢しきれなかった僕の鳴き声がひそかに響いていた。
どうすればいいのか僕にはもう分からない。それでもこのまま死ぬわけには絶対にいかない。
どうにかして結愛だけでも、僕たちにとってハッピーエンドにしてあげたいんだ。
そしていい人を見つけて、僕の事なんか忘れて、幸せに家庭をもって過ごしてほしい。
これが僕の最後の願いだ。
「浅木くん、なんでのぼせるまでお風呂に浸かっているの」
「……すいません」
「なかなか出てこないと思ったら、顔真っ赤にしてグターってしてるし」
「……ごめんなさい」
「もう、あと少し大事にしなさいよ」
「……――」
あれ?声が出ない……。
「はあ、今日は遅いから早く寝なさい。おやすみなさい」
「……」
僕は坂下さんをずっと見つめていたが、気づいてくれなかった。
叫んだせいで一時的なものかもしれないし、今日はもう寝てしまおう。
明日はいい日になりますように……。




