悪人
家族が返ってからは何もすることも無い。
ちゃんと母さんに結愛へのプレゼントも渡しておいたし、後は時間が過ぎる事を待つだけだ。
時計を見ると短い針は9時を目指し動いていた。
やることも無くもう寝ようと思ったところへ誰かが入ってきた。
「こんばんは、希」
「斉藤さん?」
知り合ったばかりの斉藤が何故僕が入院している事を知っているのか。しかもその入院している場所まで誰にも言ってない。
警戒心より、恐怖心の方が勝った。
「その目からして寝る前だったかな。端的に終わらせるとしよう」
僕は黙ったまま斉藤の目を見つめ続けた。
「何で入院しているのまでは分からないが、親友の頼みだ……さっさと死ねよ」
「……は?――」
死ね?親友?
僕たちはあったのはこれで二回目だし、死ねってどういう――。
斉藤はそのまま話を続けた。
「その感じだと覚えていないようだね、俺と君はよく小学校の時、遊んでいたんだが、君にとってはただの『遊ぶだけの人』と言ったところか」
小学生の友人の名前が『斉藤実』だったんだ。聞き覚えがあるはずだった。
だとしたら最悪の再会じゃないか、友人としての頼みが『死ね』なんてあまりに残酷だ。
「覚えていないのならいいや、話がどう転がろうと早く死んでね」
「みの……何言ってんだよ」
意識をしたわけでもないのに、「みの」という小学校で呼んでいたあだ名がふと口から出てきた。
「なんだ。覚えてたのか」
「思い出した。僕は……」
結局死ぬ。だが実が僕に対して死んでほしいと願う理由を知りたかった。
「人を殺したくはないんだ。それにもし殺してしまったら結愛さんとお付き合いができなくなるからね。だからすぐに自殺しろよ」
「――」
「君の居場所を探すのは大変だったんだ。ずっと君たちの事を付けていたんだから、結愛さんは視線を感じていたみたいだから本当に危なかった。喧嘩別れしたから今ならいけると思ったら、あいつはお前の事ばっかり僕に相談するんだ。仲直りの方法?結婚って難しい?知るかよんな事!お前さえ消えれば結愛さんと付き合えるんだ」
本気で言っているのなら、いかれている。
駄目だ、死ねない。死ぬわけにはいかない。
結愛とこいつを突き放すまでは死ねれない。
「また来るよ。できれば葬式で会いたいな」
実は嫌味を吐いて出て行った。
すぐにスマホを取り出して、何度も何度も結愛に電話を掛ける。
――出ない。
簡単に着替えを済ませて病院を飛び出した。
体が重い、足があがらない。
でも、早く結愛に知らせなきゃ。
――自分勝手と言われてもいい。
――自己満足と言われてもいい。
――なんだって言えばいい。
あと少し頑張れば、結愛の家に着く。
着くと同時に呼び鈴を鳴らした。
玄関が空いて出てきたのは結愛の母親だった。
「希くん、どうしたのその目は」
「結愛はいますか」
左目の事は何も答えずに、結愛の母親に聞く。
「結愛に何か用?」
「結愛はいないんですか!」
いつもは歓迎されるのに何故こんなに冷たいのだろう。
結愛の『結婚』を断ったせいだろうか。
「結愛はいないわ。何か用だったの?」
「どこにいますか」
「さっきかな何で私の質問に答えてくれないの」
「どこにいるんですか!」
奥から結愛の父親が出て来る。
「もういい、閉めなさい」
急いでいるのに、時間が無いのに、その焦りで手が出そうになるが歯を食いしばり我慢をする。
「時間が無いんです!どこにいるんですか!」
「結婚の事ならあきらめろ、ちゃんとした職場にも就けない奴に結愛はやらん。それに結愛からの申し出を断ったようだな、なにを今更――」
「何も知らねー奴がうっせんだよ!」
初めてこんな口を汚く叫んだ。
力が出ない時に何させるんだよ。
「なんだその態度は」
「すべて話しますから、結愛の場所を教えてください」
結愛の両親は目を合わせてどうするかを考えた。
「分かった、入りなさい」
僕と結愛の両親は向かい合うようにリビングのテーブルに座った。




