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一月の手紙  作者: 紗厘
第3章 ~独り~
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一転する現実

 目を覚ますと左目には包帯がまかれていた。

 隣には担当の先生が窓の外を眺めていた。

 先生は僕が目覚めたことにかが付く。


(のぞみ)くん、おはよう……」


「おはようございます」


「その……なんだ…………」


 先生は何かを言おうとするが進む気配が無い。でも僕は何を言おうとしているのか予想はついていた。


「余命、縮まりましたか?」


「――……何故それを?」


「体が明らかに鈍くなてますもん、それに先生の態度で予想はつきます。……あと何日ですか?」


「言わなくては駄目だよな」


「はい、何が起きても絶対に真実を教えるって約束したじゃないですか」


 ……喋る事も少し辛いな。多分一週間ほどかな……それだけあれば結愛と仲直りできる――。


「……あと…………今日を含め3日だ」


 先生の言葉は僕の思考を停止させた。


 あと3日で仲直りできるわけが無い。いっそうの事、本当にこのままでいのではないのだろうか。悲しむ人は少ないほうがいい。そうだ、このままで良いんだ。


「……家族には?」


「もう伝えました」


「…………」


「っ――」


 先生からはすすり泣きの声が漏れている。


「すまない……一番つらいのは(のぞみ)くんだろうに……将来のある少年を救えない私自信が情けなさ過ぎて……」


「いえ、先生は僕の「真実を伝える」って約束を守ってくれる立派な先生です。それに僕に限っては、原因不明、新しい病気だったんですから」


「すまない、今日親御さんは来るそうだから……私は出るよ」


「お疲れ様です」


 先生が出て行ってドアが完全に締まる事を確認しすぐに日記を取り出した。


     ∵


 昨日、突然意識が飛んで倒れてしまったみたいだ。

 理由は分からないけど、左目の視力が無くなったんだって。

 何で死にかけの僕からこんなにも奪っていくのかな。


 と言いながらも、あと余命が3日に短縮されたんだ。だから仕方ないって振り切れる。

 僕の感覚もおかしくなっているのかもしれない。


 結愛(ゆあ)とは喧嘩したまま別れる事になるかもしれない。それが一番の心残りだ。

 自分になんて言い聞かせたって、結局は仲直りしたいと願ってしまう。

 強引な僕も好きになるって言ってくれていたから、無理やり仲直り出来るかな?

 でも強引とはまた違うよね。


     ∵


 冗談言っても笑う余裕が無いし、文字を書くだけで辛いからもう日記風の手紙も終わろうかな……。


 まだ死にたくないのにな……。


 紙を白色の封筒に入れてしまった時に、ドアからノック音が聞こえた。


(のぞみ)~、元気か」


 親父が呑気に入ってきた。

 こんな状況でも対応を変えないのは親父のいいところではあるが、悪いように言えば緊張感がないともいえる。


 後ろから母さんと(さとる)が入ってきた。


「お兄ちゃん!マジで1(ワン)チャン受験落ちたぞ」


「おい!」


「いや、覚えてる問題を集めて母さんに聞いたらほとんど間違えてたんだ」


「覚えてない問題に懸けるしかないな」


「面接は自信あるから、踏ん張ってみる」


「今からどうにかできる問題でもないからな」


 悟の調子はいつも通りに見えるが、無理してるようにしか見えなかった。でも隠すことは上手にできている。兄である僕にはバレバレだ。


「はいこれ、(のぞみ)が好きだったタルトケーキ買ってみたの」


「おおーこれまた奮発(ふんぱつ)したね」


「まあね、家族には幸せになって欲しいものは」


「これ皆で食べようよ」


「いいわよ、一人用のタルトなんだから」


「僕は家族で食べる事に幸せを感じるんだけどね」


「……あー、もうわかったわよ」


 引き出しから果物ナイフを取り出して、小さなタルトを4等分する。

 家族で分けて食べる。

 (さとる)は上にのっているベリーをいくつか落としている。実に悟らしくて笑ってしまった。


 それからは他愛も無い家族の会話をしたり、悟の将来を心配したりで楽しい時間が過ぎて行った。


 午後6時頃になり、もう帰るらしい。


「お兄ちゃん、ちゃんと元気にし……しとけ…………げんぎぃ……うぅ」


 悟も何時間もいれば我慢の限界が来たのか泣きだした。


「悟、兄ちゃんの前では泣かないって約束しただろ」


 そういう親父も悟につられて涙目になっている。

 母さんの方を見ると、ひそかにハンカチで涙を拭っていた。


「どれだけ我慢したってどうにもならないよ、泣くことはダサくないんだから、我慢しなくていいときは泣けば……」


 これって結愛(ゆあ)の言葉じゃんか。


 僕が考え事をしようとするときに、悟が僕に抱き着いて声に出して泣いている。

 僕は悟を胸に抱いたまま、親父と母さんも呼んでみた。

 親父も母さんも僕に近づいて大きな手で僕たちを包んだ。


「希は強いな」


「そんなことないさ、ただ諦めがいいだけ」


「いや、充分強い子だ」


「……ありがと」

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