聞きたくない言葉
会計を済ませた。時間を確認するとお昼頃なのでフードコードに移動する。
たくさん種類があってどこに行くか迷う。
「混んでないところにいこっか」
「そうなると……」
僕が周りを見渡していると、肩をトントンって叩かれる。
「希、あれ食べたい」
視線の先には器から少し飛び出ているエビが印象的な海鮮丼だった。でも改めて何度見ても一番客が並んでいる。
「でも、一番混んでるよ?」
「別にいい、あれが食べたい」
「並んでる時に文句言わないでよ」
「希こそ、うるさくしないでよ」
僕は、はいはい。と頷いて海鮮丼の店に並ぶ。
返却口に返さずに置いてある食器を片付けている海鮮丼の店員にあと何分ほどか聞いてみた。
「大体の予想になってしまうんですが、スムーズに行ってあと23分ぐらいだと思います」
「分かりました、ありがとうございます」
あまりに長いので重い溜息が出た。
結愛の方を見ると、天井を見つめていた。
僕の視線に気が付いたのか、
「何も言っていないからセーフよ」
と、文句を言う事を我慢しているようだ。
話には触れずに、僕は地面を見て時間が過ぎるのを待った。
待つ。
――待つ。
――――待った!
「お待たせしました。ご注文はお決まりですか?」
「海鮮丼を二つお願いします」
「分かりました、少々お待ちください」
やっと椅子に座る事が出来た。
もう少し長ければストレスが爆発するところだった。
それは結愛も同じのようだった。
「じゃ、食べましょうか」
「そうだね、いただきます」
ずっと立ちっぱなしで得られたご飯は美味しかった。
ブリの弾力はよく、いくらのプチプチ感もたまらない。エビはぷりっぷりだし、サーモンも口の中でとける。
「並んだ分は美味しくてよかったわ」
「そうだね、でももう並びたくはないかな」
「激しく同意だわ」
二人して、ぐったりと椅子にもたれ掛かっていた。
それからは、雑貨屋に行ってアクセサリーを買ったり、謎の置物を買ったりした。
靴屋では見るだけで終わり、ゲームセンターに入ってみる。
クレーンゲームはお互いに下手だったから、アイテムを使うレースゲームが意外に盛り上がった。
結愛に、幽霊を倒す銃を使う『ガンゲー』に無理やり入れられて、情けないことを自覚の上で、ずっと結愛にへばりついていた。
何故、幽霊が怖くないんだ……。
「一通り遊べたね~、格ゲーってやつはもういいや、あれは難しい」
「僕としては、幽霊のやつよりかは楽しかったな」
「わざとなのか知らないけど、その時胸触ってきてたよね」
「は?」
僕はそこまで変態じゃないぞ。
「ま、ガチの悲鳴が聞こえていたから、触っていたことすら気づいていないのかもしれないけど」
僕は自然と結愛の胸に目を向けた。
「……」
「希?どこ見てるのかな?そんな触る胸なんか無いだろ。とか思ってたんじゃないでしょうね?」
「思ってないです。本当です!本当ですからぁ!」
僕はとっさに逃げた。
結愛はすぐに追いかけてきた。
ショッピングモールの真ん中は空が見渡せるように天井が無い。しかも、大きな木がそびえたっている。
僕はそこで捕まった。
ふと上を見つめると、ほんのりと星が光っていた。
「ここが暗ければもっと綺麗でしょうね」
僕を捕まえたまま言う。
「そうだね。……そうだ、早めの誕生日おめでとう」
ずっと僕が持っていた白色のワンピースとジーンズのジャケット、麦わら帽子を渡した。
ついでに、ひそかに買っておいたハンカチもその袋の中に入れておいた。
「個人的には当日が良いんだけどな」
その時に僕はいない。だから渡せる時に渡さなければいけない。
適当な理由を付けて、受け取ってもらった。
結愛が袋の中をおもむろに探り始めた。
僕はそんな動きは予想していなかったので、少し焦り始める。
「やっぱりあった」
「――やっぱり?」
やっぱりってなんだ。僕は気づかれないように入れたはずだ。
「ご飯食べてる時、何か入れたな~って思ってね」
自信満々にうまくいった。と、心の中でガッツポーズした分とても恥ずかしい。
「かわいいハンカチだね。これはプレゼント?」
「うん、まぁ」
結愛はハンカチを袋に戻すのではなく、ポケットの中にしまった。
「ねぇ、希……」
結愛が僕の名前を呼んだ時、一気に雰囲気が変わった。
駄目だ……。
「私ね……」
言わないで……。それだけは――――。
「私――」
結婚だけは絶対に――――。
「私、希と結婚したいの」
………………………。
「それは…………出来ない―――」




