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一月の手紙  作者: 紗厘
第2章 ~イチャイチャデート~
13/28

ベッドの上の事件

 これは結愛(ゆあ)の部屋で起こった事件のようなものだった。と言っても僕は初めから気にしていた事だった。

 寝る場所、いわば布団・ベッドが無いという事。

 結愛いわく、父と母のベッドはあるが使っていいわけも無く、もし使ったなら確実に叱られるという。

 夏ならば僕だって床で寝ると言えるのだが、真冬も真冬。一月に床で寝るなど罰ゲーム以外の何物でもなかった。


「よし!分かった」


「急にどうしたの?」


「僕が床で寝るよ」


 覚悟を決めた。

 これで問題は解決……と、上手くいくわけも無かった。


「馬鹿じゃないの?そんな事させるわけないじゃない。何が何でもさせないからね」


 案の定、怒られた。


「分かったわ、私のベッド一人用だけど一緒に入りましょう。二人入れば布団の中も早く温かくなるでしょうし」


「いやいやいやいや、19の男女が一つ屋根の下でいる事すら危ないのに、同じ部屋どころか同じ場所で寝るのはアウトでしょ」


「仕方ないじゃない、そうするしかないんだから」


 ひとまず同意して、結愛が寝たら床に逃げる計画が頭の中で完成した。

 僕は頷く。


「よし、じゃあ入って」


 僕の頭の中にある計画は一秒もせずに残酷にも崩れていった。

 ベッドは部屋の角にあり、僕が先に入ると壁と結愛(ゆあ)に挟まれることになる。


「いいよ、先に結愛(ゆあ)が入ったら?」


「駄目よ、そうしたら(のぞみ)が逃げるじゃない」


 さすが彼女と言うべきか、僕の考えていたことはバレバレだった。

 これは素直に入るしかないのだろうか……。


「結愛、トイレに行ってくるから先にベッドに入っているといいよ」


「トイレって、さっき行ってたじゃん。嘘ならもっとまともな嘘をつきなよ」


 諦めてベッドに入った。


 何で結愛の近くのモノは全部いい香りがするんだ。

 やばい、耐えられる自信が無くなってきた。


 追い打ちをかけように、なんの抵抗も無く結愛が入ってくる。

 死ぬなら今がいい。今月まで持たなくていいから今すぐ死にたい。


 結愛と肩が触れる。

 同時に心拍数が跳ね上がる。


「ちょっと、(のぞみ)緊張しすぎ」


 肩越しに鼓動が伝わったのか、結愛は笑っていた。


 いっそうの事抱き着いてみようかと思った。でもそんな勇気は全くない。

 でも、いやらしい意味なしでも抱き着いてみたかった。


 嫌われたら仲直りする時間などあるのか不安だ。

 こんなチャンスも無いと思って腕を伸ばした。


 結愛(ゆあ)を横から抱き着く形になった。

 これで、お風呂のときのように次は僕から、お互いさま。言いたかったのに結愛は予想外の動きをしてくる。


 逆に僕が抱き着かれたのだ。

 お互いに抱き着いている状況に僕は緊張して心拍数を上げるわけでは無く、ただ……。


 ――結愛と離れたくない。


 そう思った。

 でもなんな願望は絶対に叶わない。

 だってもうあと少しで死んじゃうんだから。

 先生も『絶対』という単語を付けて、今月で死ぬと言ったんだ。


 神様を信じているわけじゃない。都合がいいことは重々承知だ。


 この気持ちをぶつける方法なんて、神様を信じて責めるしかないじゃないか。


 何で幸せを感じたらその幸せを奪っていくのかな。


「何?希泣いてるの?」


「……」


 気づかないうちに涙が出ていたらしい。

 彼女の温かみを感じたせいだろうか。

 離れようとすると、結愛は先ほどよりも力強く僕を抱きしめた。


「いいよ(のぞみ)は本当に辛いことは何も言わないし、見せてくれないからさ。限界まで我慢してたんでしょ?別に無理に話してなんて言わないけど別に泣くぐらい、いいじゃない。人は辛い時には泣くんだよ。人はそれがかっこ悪いとか言って笑うけどそれこそおかしいことなんだよ。ま、たまには我慢もしなきゃいけないけど、今は泣いていいから気が済むまで私に話して」


「……」


「涙で語る……みたいな」


 結愛(ゆあ)は笑わせようとしたのか分からないけど、僕はその前の言葉で泣くことが我慢できなくなって聞いていなかった。


 僕はそのまま泣き疲れて寝てしまった。

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