不可抗力
「希の荷物はここ置いておくからね」
結愛はそう言いながらベッドの足元へ僕の荷物を置いた。
くつろいでいたらいいと、部屋を出て行ったが彼女の部屋に一人きりと言うのは落ち着かない。
初めて部屋に入ったわけでは無いが、今までは結愛が一緒にいた。
彼女の家に入ってから、ずっと気が張り詰めている。
とてもじゃないが、一泊するとメンタルが持たない自信がある。
溜息を吐いた時に、結愛がジュースとお菓子を乗せたお盆をもって入ってきた。
「リンゴかオレンジかグレープか、三種類のジュースならあるからいつでもおかわり言ってね」
「ありがとう」
一つお礼を言って、コップに入っていたリンゴジュースを口に入れる。
突然結愛は、僕の口調をマネしながら、
「希ってあれよね、『彼女の部屋で一人だ!下着はどこにあるかな』とかしないのね」
その内容に思わず口に含んだリンゴジュースをコップめがけて吹いた。
「ちょっと~汚い」
「飲んでる時にそんな話をするな。てか男に対しての偏見がすごいな!」
結愛は引き出しからタオルを取り出してくれる。
「冗談よ、冗談。どちらにせよ、希はもうちょっと強引でも良い気がするけどね」
「それは、多分……無理だよ」
「でしょうね。今のままでも強引になっても、私は希の事好きだからね」
「ん……」
顔が熱くなるのを感じる。
平然と言う所が卑怯だと思う。
赤くなったと感じる耳を隠すようにタオルで顔を拭く。
ほんのりと甘いいい香りがする。
僕の慣れていないことが次から次へと、試練のように降り注ぐ現状に疲れを感じ始めた。
「目が半開きだよ?眠いの?」
「ゴメン、でも大丈夫。少しだけだから」
「別にいいよ寝ても、私はいつものように過ごすから」
「それはもうしわけ……な…………い……――」
結局寝てしまった。
目覚めると、カーテンから柿色の光が差し込んでいた。
ざっと一時間ほど眠っていただろう。
それにしても、右頬がとても柔らかくて気持ちいい。
どこかで経験したような感覚だ。
このまま二度寝してしまおうかと考えてしまうくらいに、安心できて気持ちいい。
と、言っても今は彼女の家に泊まりに来ているのだからそんなことも言えない。
でも起き上がりたくない。
寝返りを打つと顔が柔らかく温かい何かにあたった。
いい香りもして眠気が増していく。
快適な中に何か違和感があった。ドクドクと何かが聞こえた。
それは時間が経つにつれてドクドクという音が早くなっていた。
仰向けになって、目を開く。夕日に照らされている結愛の顔が真上にあった。
「結愛、おはほ(おはよう)~」
僕はあくび交じりに挨拶をする。
いつもとは違って、何かを言うでもなく目を合わせてくれなかった。予想としては『おはようじゃないわよ』とか『いつまで寝てるつもり?』とか毒を吐かれると思っていたからかなり以外ではあった。
その赤く染まった顔は、夕日のひかりだけではない気がした。でも何故そう感じたのだろうか。
「――起きたなら退けてもいいのよ」
恥らながら言う意味が分からなかった。でも僕の顔、頭から伝わる感触から察した。
何故今まで気づかずに居たのか、自分でも不思議だった。
その疑惑を確信に変えるために一度体を起こす。
頭があった位置を確認する。
確実に結愛の太ももだ。
僕は思わず、今ある状況を聞いた。
「寝ちゃったから……少しやってみたかった、膝…………枕を……してみた」
「――」
「したら私もいつの間にか寝てて……お腹がくすぐったから起きたら、……服がめくれてて、出ちゃってたお腹に希が顔をこすりつけてて…………」
「――――」
「でも、起こすべきか迷って」
「ごめんなさい。もういいです」
「……う、うん」
なんとも気まずい空気だし、まとめたら僕が彼女の服を着て彼女のお腹に顔をこすりつけている変態の話じゃないか。
「でも、やっぱり強引な希も良かったかも……」
最後のトドメを刺された。




