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一月の手紙  作者: 紗厘
第1章 ~隠し事~
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彼女との出会い

 拝啓


 初春(はつはる)の候、お正月気分も抜けてますます寒さが厳しく……と、こんな真面目な文章じゃ君はこの手紙を読む前に破り捨てそうだからやめておくね。


 そういえば昨日会った時に、次からは名前で呼んでほしいって言っていたから、結愛(ゆあ)と書くことにするよ。


 なんで手紙、というよりも日記って言った方が近いのかな?

 ま、書こうと思った理由としてはね、まだ結愛には言ってないけど僕は病気のせいで、大体今月いっぱいで死んじゃうんだ。

 結愛と会ってからは一年になるけど、僕たちが付き合い始めたのは一月一日だったから一ヶ月しか恋人にしかなれないね。


 出会いは高校だったかな。

 一年で同じクラスだったらしいけど、僕が結愛を認識したのが三年生だったから僕からしたらまだ一年しか出会ってないように感じるな。

 僕が二年生になって急にいじめられたときに、話し相手になってくれたけどその事が無かったら僕は引きこもってただ死ぬのを待つだけだったかもしれないね。


 本当にありがとう。


     ∴


「おい(のぞみ)、学校終ったらいつもの場所に来いよ」


「……」


「返事はぁ?」


「……分かった」


「分かりました。だろうがよ!」


 髪を勢いよく引っ張られる。

 ありきたりないじめだった。

 学校にはバレないように校外に呼び出し、暴力を振るう。

 正々堂々やる度胸も無いのに、うっとうしい。

 僕は暴力を振るった時点で負けだと思っている。

 でも抵抗する勇気も力も何もない。

 気持ちだけが強いだけで、貧弱(ひんじゃく)で臆病だ。


 学校が終わり、駅の近くにある工場の廃墟に向かおうとした時につり目でサイドテール姿の女の子が声を掛けてくれた。


「希くん、だよね?今時間ある?」


 俺を呼び出している奴から逃げる絶好のチャンスだ。

 首を縦に振ろうとしたが、このいじめの事に巻き込みかけないので、目の前の少女に甘えようとした首を無理やり横に振った。


「じゃあ時間を作って」


 僕は、彼女は一度決めると断固として意見を変えない人だと見抜いた。

 これ以上、言葉は作らず彼女の用事に付き合うことにした。


 彼女の悠々しい背中を追っていると、ファミレスに到着した。


「僕、お金ないんですけど」


「じゃあいつか返してね」


 間髪を入れる隙も無く返答された。

 勝手だと思ったが、ついてきてしまったから何もせず帰る方が面倒くさかった。

 仕方なくファミレスに入る。

 店員に席を案内される。


 窓を傍に向かい合って座る二人用の席だ。

 初めて顔を見て話したことも無い人と、向き合って何を話せばいいのだろうか。

 僕たちの席から、なんとも言えない緊張感が漂っていた。

 彼女がメニューを覗いて、何を頼むのか決めているようだ。


「何がいい?」


 と、メニュー表をこちらへ向きを変える。


「借りるのも何なので遠慮しておきます」


「そっか」


 彼女は困ったようなしかめっ面を浮かべ、店員を呼んだ。


「苺のエクレアとホットコーヒーを2つずつお願いします」


 かしこまりました。と店員は去って行った。


「まさか俺のも頼んだのか?」


「一人は寂しいのよ。……コーヒーは大丈夫だった?」


「別に大丈夫ですけど、今月はお金返せませんよ」


「いいわ、今回は私が勝手に注文したんだから、奢りって事にする」


「それは流石に申し訳ないですよ、――えっと……」


 まだ僕は彼女の名前を知らない。

 彼女は僕が何に困ったのか気づいたらしく、自己紹介をしてくれた。


「私は結愛(ゆあ)赤沢(あかざわ)結愛。また話しかけるから覚えておいてね」


 僕はその名前を知っていた。

 教室に独りでいても、クラスのひそひそ話の中にその名前がよく出てきていた。

 学年では『綺麗』『可愛い』『性格がいい』と有名だ。

 男子からは裏で、恋愛や性欲の塊の会話が聞こえる。

 女子からは裏で、可愛いや仲良くしたい。という人もいれば、うざいやいい人ぶってキモイ、などと愚痴る人もいる。


「僕は帰ります」


 嫌な予感がした。


 赤沢結愛(あかざわゆあ)もグルで俺をいじめようとしているのではないか、今この状況を外から誰かが撮影して、学校でばらまかれて学年の男子全員からいじめられるターゲットにするための罠なのではないか。


 僕は本気でそう思った。


「せっかく注文したのに……何で帰るのかだけ教えてくれる?」


「僕は貴女が嫌いです。そしてもう関わることもありません」


「ぁ…………。そっか……」


 彼女からは喉が詰まりそうな声で返事がきた。


 どれだけ残酷な事を言ったのか、自覚はあった。

 でもこれで関わって来ない。だからこいつらの計画は台無しだ。


 僕は内心、嘲笑(あざわら)いながらファミレスを出て行った。

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