ヴァンパイアが支配する国を(終)
しばらくしんと静まり返っていたが、最初に反応したのは亜矢で、「それは……今後のためにもぜひ、見つけないといけませんね」と押し殺した怒りの声で呟いた。
忠実な亜矢は、僕を殺そうとしたというだけで、自然と怒りが込み上がってくるのだろう。
「そのためにもっ」
ばんっ、と義妹の葉月がテーブルを叩く。
いきなりなので、隣のアリスがぎょっとしていた。
「一刻も早く、葉月をおにいちゃんの使徒にっ」
言い切ると、今度は両手でバンバン叩く。
「待ちくたびれた、待ちくたびれたぁあああ!」
などと連呼している。
見事なツインテールが、テーブルを叩く度に揺れていた。
何事かと、ウェイトレスさんがこっちをちらっと見たほどだ。
「あー……おまえ、使徒になるって意味、わかってる?」
僕が試しに訊くと、葉月は余裕の表情で答えた。
「わかるよ。おにいちゃんと生涯一緒ってことでしょ? 別に葉月の今の方針と変わらないし。余裕!」
……いや、全然余裕じゃないような。
おまけに左隣のルナがそっと服の袖を引いた。
『義妹さん、危ない子なの?』
「ルナに言われるんだから、大したものだ」
相手に倣って、僕もひそひそ声で応じた。
「実際ヤバい。もの凄くヤバいんだ……でも、僕が注意してるから、大丈夫だよ……多分」
我ながら頼りない返事になったが、こればかりは仕方ない。
なにしろ、いつから葉月にストーカーされていたのか、僕ですら気付かなかった。僕を尾行するのは、かなり難しいはずなんだが。
ある意味、これも異能力かもしれない。
あと、僕らだけでやりとりしてるので、アリスが疎外感を感じたらしい。
小さく咳払いして、真っ直ぐに僕を見た。
「マスター、どうか今後の方針を!」
「うん……それが本題だしね」
僕は頷き、ざっと三人を見る。
ルナは最初から仕切る気がまったくないらしく、僕に任せきりで行くらしい。
やむなく、僕は自分の考えを述べた。
「標的はカラス神父とあの若者だけど、どちらが強敵かというと、未だ正体不明な若者の方だろう。なんとなく彼は、強敵だという気がするんだ。だから僕は、この際、手段を選ばないことにした。どのみち、最終的にはそうするつもりだったしね」
そう述べた後、結論としてなにをすべきかを語る。
驚いた顔をしたのはルナのみで、元ハンターのアリスでさえ、あまり意外そうではなかった。今更だが、この美形女子達は、全員が極めて危険な性格なのかもしれない。
「……思い切った手段に出るのね」
ヴァンパイア貴族のルナは、最初目を丸くしたが……僕を見るうちに、段々表情が綻び、最後は満足そうな猫のように目を細めた。
「でも……まずは街一つを丸ごとわたし達の色で染め上げるというのは、考えてみると素敵だわ。本当の意味で、わたし達の領地になるわね」
「そうとも」
僕は気安く頷く。
ただし、完全に本気だし、やり抜く決意だ。
「まずは街、そして国、最後は世界……人間が支配する世界ではなく、ヴァンパイアが支配する世界を作る。僕は本気だし、今は心底それを望んでいる。周り中が味方になれば、自然と敵が炙り出される道理だしね。当然、見つければ排除する」
「いつから始めますか?」
「作戦開始はいつ頃でしょうか?」
亜矢とアリスが同時に尋ねた。
「決まってるだろ?」
僕はルナと亜矢の手を取って立ち上がり、同時にアリスと葉月も立つ。
「もちろん、今この時からだよ」
……そう、どれほど時間がかかろうと、必ず僕はヴァンパイアの帝国を地上に作ってやる。
太陽光が絶対の弱点にならないハイブリッド種なら、それが可能のはずだ。
「コトが成った時には、ルナの世界へ渡ることも考えよう」
歩き出した僕がルナを見ると、彼女がぱっと僕を見上げ……そして、幸せそうに微笑んだ。
長らくおつきあい頂いて、ありがとうございました。
いつかまた、同じキャラで書くこともあるかもしれませんが、
ひとまずここで物語を閉じます。
重ね重ね、ありがとうございました。




