身内のみの作戦会議1 あの偽神父は、八神君にどんなことをしたの?
翌日知ったところでは、あの倒産した塾の前に車を停めていた使徒達のうち、数名ほどは捕まったらしい。
ビルの中で盛大な銃撃音がしたのだから、そりゃ立ち上がりの早い日本の警察が素早く駆けつけても、当然だろう。
彼らはパトカーで、停車中の車の後ろを遮断し、逃げ遅れた連中を取り押さえてしまった。
ただ、僕は捕まった連中のことは特に心配していない。
ルナや僕に不利なことは、絶対に白状しないとわかっているからだ。
ただし、無視できないこともある。
僕の心はもう決まっているが、ルナを始めとする皆の意見も聞いておくべく、僕は身内に集合をかけた。
身内というのはもちろん、当事者であるルナと僕、それに亜矢と新たな仲間のアリス……最後に、やむなく義妹の葉月だ。
なんとか首を突っ込ませまいと思っていたが、葉月の執念を甘くみていた。
あの子は、僕が普段と違うことをしていれば必ず嗅ぎつけるし、お得意のストーカー行為をして自分も関わろうとする。
それはもはや、阻止しようとしても無駄だ。
ちなみに石田氏も呼んでやろうかと思ったのだが、ルナが反対したので断念した。
「タバコ臭いから嫌よ」
……だそうで。
こういうところ、向こうじゃ貴族階級のルナも、こっちのタバコ嫌いな女の子とあまり変わらない。
「集会の趣旨はわかったけど、ここで話し合うの?」
どんな街にもあるようなファミレスの店内をぐるっと見渡し、ルナが僕を見た。
僕らはコの字型のBOX席に座り、僕の左右はルナと亜矢が固めていた。亜矢はとにかく、約束の時間よりだいぶ早めに来るので、こういう場合はだいたい望み通りの席(つまり僕の隣)に座ることになる。
あぶれたアリスと葉月は、なんとなく不満そうな顔で正面に座っている。
ざっとみんなの顔を見た後、僕は先程のルナの質問に答えてあげた。
「前みたいに寂れた場所だと、いざ襲われた時に危ないからね。一応今日も武器は持ってきているけど、できれば襲いにくいところがいい。……連中が他人の犠牲を省みないのなら、話は別だけど」
質問代わりにアリスを見ると、彼女はゆっくりと首を振った。
「いえ、ハンター達は目立つことを嫌いますから、昼間のファミリーレストランへ襲撃はかけないかと。それに、もはや日本に転移してきたハンターは、先日の連中で最後です」
もう完全に僕の使徒として吹っ切れているのか、アリスの物言いには、一切のためらいがなかった。……というか、今になって思うのだが、ルナと僕をヴァンパイアとして比較した場合、どうも使徒に対する自然な支配力は、僕の方が上らしい。
資質の問題かもしれないが。
「しかし、世界をわたるための転移門は、後でまた構築も可能なんだろう?」
「それは……はい」
アリスは素直に頷いた。
「本国の方でまだ諦めてなかったら、派遣したハンターが戻らない場合、さらに新手が来る可能性があります」
「うん。そしてもう一つ……いや、もう二つまずいことがある。一つは、僕にちょっかいかけてきた仮名カラス神父が、今回は音沙汰ないこと。そしてもう一つは――」
「葉月がおじさんを殺した日に、会った人だよね!」
無邪気に葉月が声を上げ、亜矢はともかく、アリスとルナは少なからず驚いた目で義妹を見た。
「そう」
僕はなにげなく同意し、頷いた。
「あの少年だか青年だかは、なぜかハンター達を見つけて接触し、自分は全く動かず、ハンター達を動かして僕に挑戦してきた。いわば、喧嘩を売られたわけだ……理由はわからないけど。だから僕も、放置はできない。受けて立とうと思う」
そこで、亜矢が小さく手を上げる。
僕は苦笑して言ってやった。
「亜矢、気にしないで話したい時に話せばいいよ」
「ありがとうございます」
低頭した後、亜矢は話し出す。
「その謎の青年は今後の課題として――あの得体の知れない神父が、今回はハンター達と絡んでいないということは、彼の能力シャッフルによって、世界の因果律を変えてしまった結果、『この世界においては、ハンター達とは遭遇できなかった』ということでしょうか?」
「おそらく、そうだろう。わかりやすくいえば、前にカラス神父を殺し損ねた世界と、今僕らがいるこの世界は、完全に同じではないからね。これ全て、シャッフルのせいだけど。謎の青年と並んで、もちろんカラス神父も速やかに倒すべき存在だ」
「あの、わたしもいいかしら?」
右隣のルナが、遠慮がちに尋ねる。
「結局、あの偽神父は、八神君にどんなことをしたの? 八神君ほどの人が、そこまであいつを警戒するなんて」
「そうか……そこを話さないと、今一つ警戒心も湧かないかもしれないね。わかった、簡単にあいつがなにをしたか、今ここで説明しておく。思い出したくないんで、本当にごく簡単な説明になるけど、あいつの危なさは理解してもらえると思う」
クリームソーダを啜っていた葉月がぱっと顔を上げたが、僕は安心させるように頷いた。
どうせいつかは話すつもりだったのだ。




