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亜矢はうっとりした表情で答えた


「使徒にはならなかったけど、噛まれたことによって、僕はヴァンパイアの端くれにはなっているだろうと思う。そんな僕に噛まれると、どうなるかわかってる?」


「もちろんです」


 亜矢はしっかりと頷いた……怖いほど真剣な表情で。


「守さまに吸血して頂き、守さまの使徒になれるなら……こんなに嬉しいことはありません。それが、本来あるべき私の立場だと思います」


 ……いつも思うが、こういう時の亜矢は迷いがない。

 というか、そもそも僕に助けを求めた三年前の時点で、既にこの子に迷いなどないのかもしれない。


「でも、今の状態でも、そう変わらないと思わないかな? 亜矢は僕に従っている。僕は亜矢に指示を出し、亜矢の人生を導いている。ほら、同じことだろ」

「……あの」


 ふいに哀しそうな顔になり、亜矢は俯いた。


「私では、まだ守さまの使徒になるには、ふさわしくないということでしょうか」

「まさか。僕はそんな崇高な人間じゃないし」


 崇高な人間など本当にいるのかも定かではないが、少なくともそういう人は、「場合によっては街中の人間を使徒化する」などとは考えないだろう。

 人を殺す時も、もう少し悩むに違いない。


 亜矢を落ち込ませたくないし、勘違いもしてほしくない。

 それでも僕は、最低限、今の危うい関係を保ちたくて、断固として断ろうかと思った――が。

 不意に天恵のように脳裏に囁くモノがあった。



 もし……亜矢が使徒化すれば、万一のことがあっても、簡単には死なないわけだ。



「そうか、使徒化すれば、亜矢の安全度は増すかもしれないな」


 思わず呟きが洩れた。


「そうですっ」


 現金にも、ぱっと亜矢が顔を上げた。

 アイドルのオーディションに受かるほどだ、間近で見ると、文句のつけようもない、美しい顔立ちだった。


 ルナと並んで立っても甲乙付けがたい美貌となると、正直僕は、亜矢と……ぎりぎり、義妹の葉月しか思いつかない。

 そんな子が、ひたむきな目つきで僕を見つめている。


「それに、さらにもっともっと、守さまのお役に立てるかもしれないですしっ」

「僕のことが一番だというのは、今の亜矢からすれば、仕方ないし、止められないことだとわかっている。でも、せめて自分の幸せを追及するのを、二番目の目標にしなよ」


「守さまにお仕えする以上の幸せは、ありません」

「……そうか」


 ここまで突っ込んだ話し合いをしたのは、初めてかもしれない。

 僕はだいたい、「あ、この子はもう不退転の決意で来てるな」と思った三年前の時点で、うるさいことは一切言わなかったから。


「わかったよ、桜井亜矢」


 僕は亜矢の運命を大きく変えた三年前のあの時のように、おごそかな口調で述べ、手を伸ばした。

 自然と低頭した亜矢の香しい頭に、自分の手を置く。


「その願いを聞き届けよう。むしろ、僕の方からお願いする。どうか、僕の最初の使徒となってくれ」


「あ、ありがたき幸せ」


 まるで昔の騎士のような口調で、亜矢が震える声を出す。

 冷静な彼女には珍しいが、それは歓喜のためだと僕には理解できた。他人から見れば歪んではいるだろうけど、これも彼女の愛情の深さの現れだと思う。


「おいで、亜矢」


 僕は彼女の手を引いて、近くの守衛室の中に入り込んだ。

 ドアを閉め、小さい窓のカーテンも下ろす。薄闇になったが、今の僕にはなにもかもはっきり見える。


「目を閉じて。首筋を噛むけど、あまり痛まないようにするよ」


 優しく囁くと、亜矢はうっとりした表情で答えた。


「どうか……存分にお願いします」


 僕はゆっくりと顔を近づけ、首筋に唇を寄せた。


新たな連載始めたので、興味のある方はどうぞ。今度は短編じゃないです。

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