ヴァンパイア少女の、感極まった吸血
さすがに言葉もなくルナを……というか、正確にはルナの胸を見つめるうちに、彼女はさっさと両足をまたぐようにして膝をつき、そのままそっと僕の膝の上に座った。
仕上げに、あたかも映画の熱烈キスシーンのごとく、両腕を僕の首の後ろに回し、ゆるゆると顔を近づけてきた。
ここまでの至近距離で、ルナの顔を見たことはなかった。
これだけ近くから見ると、大抵どんな美人でもなにかしら黒子や小さな染みやらニキビやらが見つかるものだが、驚いたことにこの子は、間近で見ても完璧に真っ白な肌だった。
しかも、なまめかしく肌そのものがうっすらと輝いているようにすら見える……まあそれは、染み一つない雪肌のお陰だろうけど。
さすが、太陽光を嫌うヴァンパイア少女!
――などと、長々と考え込んでいたのは、ルナの胸が僕の胸に押しつけられて、半端なく彼女の弾力を感じていたからだ。
これはちょっと、冷静に観察するのは難しいな。
年齢の割に、いろんな意味で大人に近い容姿だし。
「どうかしら……これでいい?」
僕の耳元に囁くようにして、彼女の掠れた声がした。
やっぱりルナも少し緊張しているらしい。
「うん。明るいとなおいいけど、感触は伝わるから、差し引き大幅プラスだよ……遠慮なく、がぶっとやっちゃって」
「わかったわ……わたしは、八神君は使徒にはならない自信があるから、気を楽にしてね。そんなこと言わなくても、八神君なら平気でしょうけど」
「平気――でもないな」
僕は苦笑した。
「吸血の件はともかく、半裸のルナが膝の上に載っていると、押し倒したくなる」
「――別に構わないのよ、わたしの方は」
刹那の間を置き、またルナが囁く。
今や頬と頬をくっつけているので顔は見えないが、彼女の甘い吐息を感じてしまう。
「万一、赤ちゃんができたら、がんばって育てる覚悟もあるから」
「わー」
いや、その覚悟は考えなかったな、そういや。
まあ、ルナの子供ならきっと可愛いだろうけど。
「まあほら、僕の理性が健在なうちに、吸血の方をよろしく」
「……上手く逃げたわね」
くすっと笑い、ルナが僕の首筋に唇を寄せ、今度こそ思い切って噛んできた。
牙が突き立つ感触があり、微かな痛みがあったが……ルナには治癒の能力もあるせいか、すぐにその痛みも薄れていく。
おそらくヴァンパイア少女としては、品の良い吸血の仕方だったろうと思う。
間違っても、ラーメン屋で意地汚くラーメン啜る、そこらのおっさんのようなやり方ではない……しかし、控えめに吸血中のルナの剥き出しの肩が震え出し、鼻息が荒くなっていくのを感じた。
これは、前に僕がカッターで自分の皮膚を裂いて、血を与えた時と同じだ。
いや、今回はあの時にも増して、ルナが感極まっているらしい。時折、「ああっ」とか「ううっ」とか「やが……み……くんっ」とか言うような呻き声やらセリフやらが入り交じり、白い肌がほんのりと熱を帯びて朱に染まっていく。
やたらと震えているし、体勢的に顔は全然見えないけど、今の状態でルナの胸を弄ったりしたら、この子の下着がエラいことに(中略)なんて、くらくらする頭で下品なことを考えたほどだ。
ただ、これも以前と同じく、またしても僕の気が遠くなりかけた頃、ルナは震える手で僕の肩を押し、自ら離れた。
その代わり、自分もその場で横倒しになり、荒い呼吸を繰り返す。
今回は噛んだためか、口の周りに少し血が残っている程度で、さほど悲惨なことにはなっていない。なっていないが……なにしろルナが示す高揚感が半端ない。
とろんとしたこんな目つきは以前と共通するが、これも、ルナが普段は絶対に見せないような表情だろう。
「だめ……わたし……八神君に夢中……だわ」
いやぁ、正しくは「八神君の血に夢中だわ」じゃないのかーと思いはしたが、それを口にするほど僕は野暮ではない。
ただ、膝の上に載っているルナの黒髪を撫で、ひたすら胸に注目していた。こんな役得がいつもあるとは限らないし。
「よしよし……少し落ち着いたら、実験してみようか」
日頃に似合わず、僕は優しい声音でそう囁いた。
数日前にアップした短編のラストが、今日アップ予定なので、興味ある方はどうぞ。
年齢差恋愛物です。




