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噛みつかれてる間、ルナの胸を見ていることにする


 いろいろあった日だったが、義妹と帰宅してからは特になにも起きず、中年の遺棄死体は新聞の片隅に載った程度で、ろくにニュースにもならなかった。


 幸か不幸か、飛行機事故のニュースと重なったということもあるが、そもそも警察は、中身を抜かれた財布を現場に見つけ、強盗の線で捜査しているらしい。

 ……財布の中身を抜いたのは僕であり、今のところはほぼ狙い通りだった。


 そして特に義妹の殺人がバレる気配もなく、五月も半ばに入った頃。

 僕は一定数の使徒を増やしたので、一度、全員をルナに引き合わせることにした。






「わたしが会うの?」


 うちの近所のマンションに引っ越してきたルナを訪ねて告げると、本人は露骨に乗り気薄の表情を見せた。


「八神君がボスとして、わたしを含めて皆を動かしてくれてもいいのよ?」

「いやいや、ボスはあくまでルナだし」


 僕は苦笑した。

 だいたい、僕の力は一応置いて、一対一でやり合うなら、僕などルナの敵ではない。


「それに、マスターの顔を見なくても強制支配は働くにしても、一応顔会わせくらいはした方がいい。ルナは人間の上位種で、自分達のマスターなんだと、骨の髄まで認知させないと」  


 ついでに十畳以上あるリビングをぐるっと見渡し、教えてあげた。


「この部屋を格安で紹介してくれた不動産関係者も、使徒の一人だしね」

「……そうだったわね」


 ルナを小さく肩をすくめ、僕の手を取った。


「それくらいは、支配者たるわたし達の責任かもしれないわね」


 支配者はルナだけだと思うのだが、どういうわけだか彼女は、僕を他の人間と同じとは思っていないようだ。下手をすると、自分より僕の方が格上だと思っている節がある。

 不思議なことではあるが。

 僕はあえて否定せず、代わりに別の提案をした。


「なら、そろそろ例の件、試してみない?」

「吸血……のこと?」


 僕は小さく頷く。

 ハイブリッドとはいえ、まぎれもないヴァンパイアであるルナが直接牙を立てて吸血すれば、それはもう、普通は使徒になってしまう。


 今回、僕がたまたま、輸血によるヴァンパイア因子の感染なんて方法を見つけたものの、古来よりのやり方の方が、より確実だろう。

 そして僕とルナは双方揃って、「多分、ルナが僕を吸血しても、僕の方は使徒化しない」と確信していた。


 不死身の超人が生まれるだけで、別に使徒にはならないだろうと。

 ルナは本人のみが理解する理由でそう信じているらしいが、僕も同意見というわけだ。まあ、なぜか「自分は使徒にならない気がする」と思っているに過ぎないが、僕の場合、そう思っていること自体が重要だ。


「別に不死身になりたいわけじゃない。使徒化せずに吸血できるとわかれば、僕が安定してルナに血を分けてあげられるし、集めてくる方法も広がるんじゃないかな」

「……ああ、八神君っ」


 外国映画の貴婦人のように、ルナは感激の表情で自ら僕の胸に飛び込んで来た。


「この世界に迷い込んでから、わたしがどれだけ貴方に感謝しているか、わかる?」

「わかるつもりだけど、気にしなくていいよ。僕が好きでやってることだから。……じゃあ、今から始める?」

「……そうね、わたしはいいわよ。ちょうど、八神君の血を切望していたところ」

「だろうねぇ」


 ヴァンパイアは普通の食事もできるらしい。

 味だって感じる。しかし……人間の鮮血の甘美さに勝る食事は、この世に存在しないそうな。

一度知ってしまうと、麻薬に等しいのだとか。


「特に、八神君の血はもの凄く美味しいの」


 口を半開きにして、ルナが甘い吐息をつく。そう物欲しそうに見られると、自分がテーブルに載ったステーキになったような気がするな。

 あと、今やルナの瞳が真紅に染まっている。


 僕は見とれているけど、気弱な者なら、腰が抜けて震え出すような迫力があった。


「僕はソファーに座るから、ルナは膝の上に正面から座る感じで……多分、見た感じはひどくえっちだけど、それくらいの役得があってもいいだろ?」

「いいけど、そういう言い方しないで……意識するから」


 さっさとソファーに座った僕に、ルナが唇を尖らせる。

 しかし機嫌が悪化したわけではなく、切れ長の目でとっくりと僕を見つめた。


「……他になにかご注文は?」

「痛みを紛らわせるために、セーラー服の上だけ脱いでって言ったら、怒る? 噛みつかれてる間、ルナの胸を見ていることにする」

「またまた……痛みなんて、全然平気なくせに」


 くすっと笑ったルナは、しかし部屋の明度を落としたかと思うと、本当に上衣を脱いでくれた。

 半分冗談だったんだが、今更そんなこと言えない。


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