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おにいちゃん、来てくれてありがとうっ

 黙っているわけにもいかないので、通話を終えた後、石田氏にはごく簡単に「義妹がストーカーを返り討ちにして殺したので、現場へ急行よろしく」と述べたのだが――。


 いやぁ、石田氏の驚くこと驚くこと。


 仮にも元刑事なんだから、殺人なんか慣れてると思うのに、「返り討ちにして殺した、だとっ!?」と渾身の力で怒鳴った。


 心底動揺している証拠に、車が少し蛇行した。






「ど、どうするんだっ」

「……だから、現場へお願いしますと。でも、そばまで来たら停めてください。あとは僕が行きます」

「いや、そうじゃなくてっ」


 ダンダンッと苛立たしそうにステアリングを殴る。


「今からそこへ行ってどうすんだって言いたいんだっ。もう相手は死んでるんだろ? ならどうしようもあるまい、えっ。警察に事情話して、自首するしかねーだろうがっ。幸い、子供ならそう大したことにはならんだろうし」

「させませんよ、そんなこと」


 僕はきっぱりと言い切った。


「僕に懐いている可愛い義妹の将来に、傷がつくかもしれないじゃないですか」


 あたかも教育ママのごとく、僕は言い切る。

 実際、石田氏は別として、警察なんぞに介入させる気はない。


「おまえが思うより、警察は優秀だぞっ。いつかおまえの義妹がやったとバレるかもしれん」

「その時は、僕は自分の力の総力を上げて対抗するので、ご安心を。例え全世界を敵に回す羽目になったとしても、義妹を物見高いマスコミの餌食にはさせませんよ」


 不退転の決意をもって述べたせいか、石田氏が少し肩を動かした。

 もはや人間やめてる彼のことだし、あるいは僕の力を多少は感じ、圧迫感を覚えたのかもしれない。





 すっかり押し黙った石田氏だが、とにかく現場近くまで送ってはくれた。

 そこで車を降り、僕は窓を開けた石田氏に頼む。


「半時間以内に戻るか、あるいは携帯で連絡します。少しだけ待っててください」

「そりゃ待つけどな」


 石田氏は憂いを含んだ目で僕を見た。


「できたてほやほやの死体を、肩に担いで戻ってくるのだけはご免だぞ? 出来の悪いハリウッド映画じゃあるまいし、森でおまえと一緒に穴なんか掘るのは願い下げだ」

「ご安心ください、僕は肉体労働が嫌いなんです。その必要があれば、使徒を何名か携帯で呼びますから」


 あとは返事を待たず、僕はその場を離れた。





 

 義妹の葉月が知らせてきたのは、僕の街に新たにできた――いや、出来つつある、新興住宅地である。

 もうおおよそ土地の造成は終わり、後は次々と小さな建て売り住宅が乱立し始めているところだ。ただし、請け負った不動産屋が最近倒産したとか新聞で読んだ気がする。


 だからだろうか、住宅地にはまだ入居者は誰もおらず、静まりかえっていた。

 義妹が引きずり込まれた家というのは、国道から少し入ったすぐの場所で、住宅地の一番端に当たる。


 さりげなく周囲を確認してから僕が近付くと、玄関口で待ってたようで、すぐに葉月が顔を覗かせた。



「おにいちゃんっ」


 僕は口元に人差し指を持ってきて、「静かに」と合図した。

 申し訳なさそうに頷く葉月の元まで、大股で近付く。


 まだ薄闇状態なので、かろうじて義妹の格好がわかった。ストーカーされたのは、帰宅した後のことらしく、私服だった。

 ジーンズ生地のぴっちぴちのショートパンツと、パンスト、それに長袖ブラウスという格好である。上はともかく、下は開放的過ぎるような。


 死んだおじさんじゃなくても、いつ誰にストーカーされても、おかしくない。

 中一にしては、見た目のスタイルもいいしな。


「おにいちゃん、来てくれてありがとうっ」

「なんの」


 すぐに抱きついてきた葉月の髪を撫で、「ストレートロングはやめて、ツインテールにしたのなあ」と、まずは落ち着かせるために話しかけた。

 おまけに、左右に可愛いリボンもついている。


「うん……帰宅してから、美容院へ出かけたの。こういう髪型、おにいちゃん好きかもしれないなぁと思ったから」


 こんな時なのに、葉月が照れたように笑う。

 僕並とはいかないものの、この子もまた、普通とは言い難いだろう。


「実際、好きだよ」


 腕の中の葉月をじっくり観察したが、動揺している様子はない。

 気にしてるのは、僕の反応だけらしい。いつ怒られるかと、覚悟している感じだ。


「じゃ、ちょっと死体を見ようか」


 そっと葉月を引き離し、靴を脱いで屋内へ入った。一応、手袋をして、小型懐中電灯を持つ。

 内装はまだ全部済んでいないようだが、もうほとんど人が住める状態ではある。あいにく、初々しい新築の印象を、居間に転がる横倒しの死体が台無しにしていたが。


 実は生きてましたっ――という線は、まず皆無だった。


 アイスピックが首の後ろから刺さって、思いっきり前に抜けているのだから、こりゃ絶対に死んでるだろう。目を見開いたままだしな。


 僕自身が手をかけても、ここまで上手く殺せる自信ないな、しかし。


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