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愛してるわ、おにいちゃん!


 ――この「ヤクザの倉庫に押し入って、各種危険な武器を入手」という作戦だが、結果的にミッションは成功に終わった。


 別に僕としては意外でもなんでもなく、相手がヤクザさん達なら、むしろ当然という気分だったのだが。

 石田氏にすれば、そうは思わなかったらしい。


 彼の持ち前の慎重論がそうさせるのか、しきりに「本当に上手く行ったかどうか確かめたいから、監視カメラの録画映像を確認したい」だの、「雁首揃えてるこいつら、ホントに俺達の記憶が残らないのか?」だの、いろいろとうるさいことを言いだし、結果的に彼が満足するまで留まったせいで、後からもう一人ヤクザが現れ、余計な仕事が増えた。


 その人は割合影響力がありそうな立場だとわかったので、この際、使徒になってもらったが。

 マスターであるルナとまだ出会っていなくても、潜在意識のレベルで、もう彼女の命令には逆らえない。今の時点で、もうルナの私兵同然である。

 やはり、輸血して使徒を増やすのは正解だ。


 とはいえ、石田氏の心配性さえなければ、早めに終わったというのに……僕らが再び車で「倉庫」を後にしたのは、もう日が落ちた時間帯だった。


 いかに遠出したとはいえ、想定外の時間である。





「……次にこんな用事ができた時は、くれぐれも石田サンは時間取らせないでくださいよ」


 車の中で、さすがの僕もむくれていた。

 隣には武器が詰まったボストンバッグが二つもあるが、僕的には余分な時間を取り過ぎた気がする。


「いやしかし、確認したり安全を確かめたりするのは、悪いことじゃないだろ?」

「ところが、僕にとっては悪いことです」


 にべもなく僕は言い返す。


「あまりにも石田サンが疑いまくると、僕自身にも悪影響を及ぼす。自分の行動が本当に正しいか迷い始めたら、この能力は悲惨なことになるんですよ……今度は逆転して、心配事が全部実現してしまう。理解してほしいですね」

「そりゃ確かにまずいな……わかった、次は自重する」

「わかってもらえれば、それで」


 とはいえ、彼は本当に僕の力が逆転するところを見ないと、納得しないだろうなとは思う。

 しかし、そうなった時には、全てが手遅れになるかもしれないのだ。


 だいたい既にかなり悪影響が出た気がする。石田氏の不安が僕にまで伝染して、いつ何時、面倒ごとが起きても不思議はない気がした。

 僕は、そんなこと考えちゃまずいってのに。


 ……途端に、ポケットの中で携帯が振動した。


取り出して番号を見ると、義妹の葉月である。てきめんに嫌な予感がして、僕は顔をしかめた。そういう風に気分が荒れるとロクなことがないのだが、こればかりは上手くコントロールできない。


 我ながら用心深い声が出た。




「……もしもし、葉月?」


『あ、おにいちゃん。ごめんね、いきなり電話して』

「なんの。おまえの電話なら、いつだって喜んで受けるさ。……なにかあったのか? ストーカーに尾行されている最中とか?」


 それだと、むしろ今は好都合かもしれないのだが、あいにく微妙に外れた。


『う~ん……尾行はもうされてないの。途中まではされていたけど、陽が落ちた瞬間に、空き家に引きずり込まれたの』


 ――なんですと!


 落ち着いた声でそういうこと言われても困る。

 まさか、もう取り返しがつかない状態になった後で、虚ろ目状態で話してんじゃないだろうなっ。

 僕は務めて自分を落ち着かせ、携帯を持ち直した。


「撃退した――という意味かな?」


 己の精神状態のためにも、良い方の結果を想像しておく。


『うん、あたしが撃退したの!』


 葉月が明るく答えてくれた。


「そうか! それなら――」


 ほっと息を吐きかけた僕だが、あいにく安堵するのは早かった。

 返事に割り込むようにして、葉月はこう続けたのだ。


『でも、でもねっ。あたしの反撃が想像以上に効いちゃったらしくて……この人、死んじゃったの』


 ……うわー。


 めちゃくちゃ最悪な結果じゃないかっ。

 いかん、心を乱すな僕……今余計なことを考えたら、それが本当に実現するっ。これ以上のひどい展開を避けることを考えないとっ。


 僕は深呼吸した後、わざとゆっくりと指示した。


「今いる場所の、住所はわかるかな? すぐ助けに行くよ」





『ありがとうっ』


 葉月の声が極端に弾んだ。


『おにいちゃんなら助けてくれると思ったのっ。……愛してるわ、おにいちゃん!』


 僕だって愛してるさ……義妹として。

 内心でため息をつき、僕は葉月の声に集中した。


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