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武器の調達


 いずれにせよ、すぐに動く機会はもう失われた。

 石田氏が信号で車が停まった途端に振り向き、珍しく破顔して僕を見たのだ。


「おおっ。じゃあ、禁煙解除の件は本当に頼んどいてくれよな。あと、新車もな!」


 かなり調子よい声音だった。


「ストーカーの件が片付いたら、ですね」


 しれっと答えた後、彼の情けない表情を見て、苦笑した。


「まあ、禁煙の件は今日にもルナに頼んでおきますよ」

「す、すまんなっ」


 たちまち機嫌が回復した石田氏に、僕は釘を刺した。


「それはともかく、今は任務に集中しましょう。今日のも、なかなか非合法で油断ならない任務ですしね」

「つか、ヤクザから武器をガメるなんてのは、いかにもおまえらしいや……高校生の考えることじゃーねよ」

「なにを他人事みたいに言うやら。僕が望む武器を秘匿してそうなヤクザさんを教えてくれたのは、他ならぬ石田サンじゃないですか」


 笑顔で僕が言い返すと、「喜んで教えたわけじゃねーやっ」と石田氏が車をスタートさせ、早速喚いた。

 もう周囲は、民家もまばらな郊外である。


「マスターが、『持ってる知識は全部、八神君に教えなさいっ』て横から命令したからだろっ」


 そりゃまあ、使徒はマスターの命令に逆らえないからね、はっは。


「でしたねー。とはいえ、普通のライフルくらいなら日本にもその手の武器を扱う店があるから、そっちを襲った方が早いんですけどね。でも僕が欲しいのは、もう少し危険な武器なので……今から行くところにあるといいんですが」

「そこになけりゃ、後は米軍基地でも狙うしかないね」


 石田氏はきっぱりと言い切った。


「構成員の数からしてかなりの組織だし、そこの『倉庫』を狙うわけだからな……見かけより警備も厳重だし、今回はマジでおまえの力に期待するしかない。本当に記憶の消去やら、映像の抹消やらは可能なんだろうな? 多分、監視カメラもあるぞ」

「正確には、僕らと会った記憶をすり替えるだけですけど、大丈夫ですよ。相手がわかりやすい悪なら、僕の敵じゃないです」






「……おまえはさらに巨悪だから、か?」


 未だに信じられないらしく、石田氏が食い下がってきた。


「その通り。これも正確には、僕がそう信じているから、その通りの結果に終わってるだけなんですけど」


 同じ説明を繰り返したくないので、僕は素早く話を変えた。


「ところで僕も質問ですが――ヤクザの幹部連中が、武器を集積してるそこを、隠語で『倉庫』って呼んでるんでしたね。知ってるなら、取り締まればいいのに」


 石田氏がヤクザと繋がっていて、ちょくちょく小遣いをせしめているのを知ってて指摘してやった。


「だから、嫌みはよせっ」


 早速、言い返された。


「確かに俺は連中から金をせしめているが、悪いことばかりじゃないぞ。ちゃんと正義の役処も果たしている」


 おまけに、妙な主張を始めてくれた。


「正義ですか……」

「本当だって! 対抗組織となってる組の弱みをついて、そっちはガンガン潰して回ったからなっ。こりゃ立派に正義だろう?」


 ……それもおそらく、自分が繋がっているヤクザから提供された情報あってのことだろう。

 向こうにしてみれば、抗争など始めて自分達に被害が及ぶよりは、石田氏のような悪徳警官を動かして対抗組織を潰した方が、楽なわけだ。


 つまるところ石田氏は、小遣いをくれるヤクザの片棒担いで、せっせとそこの組織拡大に寄与していることになる。

 ヤクザの勢力バランスを少しずつ崩しているのと同義であり、善悪で言えば、将来的には差し引き巨大なマイナスになりそうな気がする。


 しかし僕は、余計な非難は一切しなかった。

 その非難されるべき石田氏を動かし、問題のヤクザから武器をガメようというのだから、他人にどうこう言えた義理はない。






「……着いたぞっ」


 さすがに緊張したのか、石田氏の声が重苦しくなった。


「俺は自前の銃を持っているが、おまえも持ってきてるだろうな?」

「ご安心を。一応持ってますよ。でもまあ……ヤクザが相手なら、穏便に話を運べるんじゃないかな。そういう人達が相手なら、気が楽ですね。神父みたいなつまらない正義感もないし」

「はあっ!?」


 金切り声を上げた彼は無視して、僕は先に降りた。

 場所は川沿いの堤防がずっと続く道であり、車の通行はめったにない。

 眼前には、とうに閉鎖された廃工場が建っていて、もはや廃墟と化しているように見える。両開きの鉄の扉にも「倒産しました」の張り紙があって、固く人を拒絶していた。


 全く無人に見えるが、そうではない証拠に、気配が近付きつつある。

 ここを管理しているおヤクザさん達らしい。


「では、はりきって行きますか!」


 以前と同じく、僕は石田氏に明るく声をかけた。


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