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始めから存在しなかった


 次の瞬間、「よしっ、今回は倒した!」と思った。


 というのも、神父は寸前で逃げようとしていたが、それでも頭部から大量に鮮血が飛び散り、派手に後ろへ倒れたからだ。


 しかし、銃口を下げようとしたその時、神父が脇へ転がり、またしても長椅子の陰に隠れようとした。

 どうも、今の一発は側頭部をややえぐっただけに終わっただけらしい。




「なんて悪運が強いんですか、あんたはっ」


 駆け出した僕は、すぐに先頭に置かれた長椅子の前に回り込み、今、まさに自分の口に銃口を突っ込んだ神父を見つけた。


「またシャッフルで逃げるつもりですかっ。往生際が悪すぎる!」


 僕は狙いを付ける暇すら惜しみ、銃口を向けてガンガン撃ちまくってやった。

 一発は倒れた神父の太股に当たり、もう一発は額を掠めて、またぱっと血が飛び散った。しかし、致命傷ではない。

 まだ引き金を引こうとしている。


 しかも、この肝心な瞬間にルナが叫ぶ声がした。




「八神君、誰かの足音がするわっ」

「なにっ」


 さすがに、僕の注意が削がれた。

 気のせいではない証拠に、今や僕の耳にも外の靴音が聞こえる。すぐに壁際の小さなドアが開き、三名ほどの男達が駆け込んできた。


 全員、金髪碧眼の異人さんであり、捕虜にとった青年と外見が似てる。


 これはもしかして――




「ハンターっ!」


 嫌悪感まみれのルナの声が届き、僕の推測を裏付けてくれた。

 当然、棒立ちの彼らもルナを認めて叫んだ。


「――っ! 貴様はっ」

「ええい、ややこしい時にっ」


 一旦そちらを放置し、僕はしつこく銃口を神父に向け直したが……むかつくことに、神父はちょうど自殺を決行したところだった。

 口に突っ込んだ銃の引き金を引き、頭部がガクンと仰け反った。


「……あ~あ」


 がっかりした僕は、銃を下ろしてため息をつく。

 死んだ後の神父の顔が、やけに満足そうなのも、むかつく原因だ。引き金を引いた瞬間、己が逃れ得たことを確信したのだろう。


「本気で悪運強いな、この人……」


 あるいはこれは彼の悪運などではなく、僕の能力が逆転した結果かもしれないが。

 以前、一度逃げられているだけに、「今回こそはっ」と意気込んだのが、裏目に出たらしい。己の選択にちょっとでも疑いを持つと、このザマだ。


「おい、おまえっ」


 後から入ってきたうちの一人が、僕とルナを交互に睨んで喚いた。


「まさかおまえもあのヴァンパイアの――」


 途中で、不自然に語尾が消えた。


「ああ、はいはい。もう何を言われても遅いです……神父のシャッフルが発動しちゃいましたから」


 僕が投げやりに手を振るうちにも、彼らの姿は徐々に薄れ、完全に消えてしまった。

 もちろん、死んだはずの神父の身体も。





「八神君っ」

「守さま!」


 ルナと亜矢が二人して駆け寄り、大の大人の石田氏が恐る恐る僕に近付く。

 侵入者はもちろん、僕が撃ったはずの神父まで消えているのを見て、盛大に顔をしかめていた。

 付け加えると、神父と僕が撃ったせいで抉れた教会の床も、ルナが蹴飛ばして破壊した入り口の扉も、全部僕らが来る前に戻っていることだろう。


 縛り上げていた捕虜のハンター君も、神父と共に消えた。

 連中の痕跡は、綺麗さっぱり消滅したということだ。


「おい、今入ってきた連中は?」

「今入ってきた連中? そんなの『始めから存在しなかった』んですよ。おそらく彼らは今もどこかに潜んでいるだろうけど、少なくとも、この教会に近付いたことすらないと思います」


 僕は天井を仰いで盛大に愚痴る。


「神父のシャッフルが発動して、無理に歴史の流れを変えてしまったからです。彼が僕に撃たれたなんて事実は、もう僕らの記憶にしかない。この教会も(最初から)、彼らの隠れ家じゃなかったことになってるはずですね」


 一度は殺害を確信しただけに、どっと脱力してしまい、僕は手近な椅子に座り込んだ。



 悪いが、今は詳しい説明なんてしてる気分じゃないな。


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