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チェックメイトだ、インチキ神父っ

「あー、そういえば説明すると言いつつ、どうして貴方に勝つチャンスが皆無なのか、ちゃんと説明してませんでしたね」


 仮名カラス神父にではなく、背後の石田氏に向けて僕は語った。


「まあ、ほとんど今のが答えも同然なんですが、詳しいことはこのゴタゴタが済んでからにしてくれません? のんびりしてる時間もないことだし」

「いやしかし、おまえは前も同じことを言ってそれっきり」

「いいから、黙りなさいっ」


 しつこい石田氏を、ルナが止めてくれた。


「八神君の邪魔になるでしょう!」

「……あ、はい」

「くっ」


 いかん、石田氏のしゅんとした声を聞く度に、いちいち笑いが込み上げてしまう。

 僕はこんな笑い上戸じゃなかったんだがな。


「あいつが使徒にされているのも、どうせおまえの差し金だろう、八神。他人の不幸がそんなに楽しいか?」


 僕の笑みを見て、神父が嫌みを言ってくれた。


「貴方に言われたくないですけどね」


 お陰で、笑いが引っ込んだな。


「三年前に貴方が起こした馬鹿騒ぎのせいで、親父は死ぬわ、うちの家庭はぶっ壊れるわで、散々迷惑したんですが」


 途端に、神父が底意地悪そうに目を細める。


「確かに使命感からおまえを糾弾して事件を起こしたのは私だが、父親が死んだのは――」


 僕はロクに聞かずに、壁側にある小さな入り口の方をちらっと見て、「あっ」と声に出した。


「――むっ」


 よし、見事に引っかかってくれた。

 向こうが妙に嬉しそうな顔でそちらを見ようとした隙に、僕は背中側のベルトに突っ込んであった銃をさっと抜いた。


 ついさっき、石田氏から取り上げたベレッタM950である。

 石田氏が先に撃っているが、まだ弾は数発ほど残っているはず。


「ま、待て!」 


 気配を察して向き直った彼は、銃を構えた僕を見て、たちまち喚いた……自分だって、ゴツそうな自動拳銃を構えているくせに。


 めんどくさいから、このまま弾が尽きるまで撃ちまくるか? 

 しかし、彼には「シャッフル」という名のふざけた切り札がある。自分が逃げるのに特化した力だが、どうしてどうして、僕から見てもかなりやっかいな力なのだ。


 というのも、僕の能力には遠く及ばないにせよ、シャッフルもまた、世界の因果律を改変し、この世の大きな流れを強制的に「曲げて」しまう力だからだ。


 発動条件はきっちり定まっているが、かなりやっかいである。


「この期に及んで、話し合いの余地もないでしょう。僕が死ぬか、貴方が死ぬかです……まあ、僕が死ぬことは有り得ませんけどね」


 言いつつ、僕はこっそり接近していく。

 かなり近付いているけど、まだ望む場所に当てるほどの距離じゃない……別に僕は銃の玄人というわけじゃないし。


 今は、確実に頭に当てて、即死させたい。下手に一発で死ななかった場合、神父が自殺を試み、彼お得意の「シャッフル」が発動してしまう。






「そこから動くなと言ったぞ!」


 ドンドンッと連続で銃声が響き、一発は僕の頬の(多分)すぐそばを掠め、もう一発は頭髪を何本か持っていった。石田氏の銃とは違い、耳鳴りがするほどの風切り音がした。

 しかし、肉体には掠りもしない。

 もっとも、背後ではルナが叫んでいたし、石田氏もなにか喚いていたが。



「さっき、教えてあげたでしょうに! 貴方じゃ僕を殺すのは無理だっ。巨悪を倒したいなら、同じく巨悪でないとねえっ。しょっぱい正義の味方ならともかく、本物の巨悪なんて、今の世にいるかどうか知りませんがっ」



 そこで僕は大股で彼に接近していく。

 その間もこいつは何度か撃ち、さらに一発が僕の身体を掠めた。全てが至近距離か、あるいは服を掠めているのに、一発として命中しない。


「チェックメイトだ、インチキ神父っ」


 ようやく必中距離と言えるほどの至近に迫り、僕はこいつの頭にまっすぐ銃を向けた。

 さすがに、この距離なら当たるだろうっ。


「はっは! 仮に地獄が実在するなら、貴方の席はとうに約束されていることでしょうよっ」


 笑顔で罵声を浴びせ、引き金を引いた。

 


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