心が歓喜で満たされていく
「どうせ撃てない、などと思わない方がいいと思います」
足の下でまた青年がもがき始めたので、踏みつける足にぐっと力を入れ、亜矢は教えてやった。
「それに、個人的にも貴方には嫌なものを感じますし」
「……ふん」
ちかくの長椅子に持っていたコンビニの袋を投げ出し、神父は盛大に鼻を鳴らした。
祭壇に背中を向けて立ち、亜矢をじっと観察する。
「君のしゃべり方は、正直、私も嫌いだな。ある男を思い出させる」
「私をここへ連れてきたのは、貴方達です」
相手が忘れているような気がしたので、亜矢はしっかり主張した。
「踏ん付けてる彼と話していた時は、自分のことを『あたし』と称していた気がするが? 今の君が本当の君かね」
神父はなかなか鋭い指摘をした。
「そうですね、どちらかと言えば、今の私の方が本当でしょうね。でも、あの時はああいう話し方の方が自然に聞こえるかと思ったので」
「どうも、君は最初から彼に接近するつもりだったようだ。理由を訊いても?」
「駄目です」
にべもなく、亜矢は即答した。
「それにどうせ今、あの方がここへ来ますから。貴方はまずい時に戻ってきたと思いますよ、神父さん」
「……今だと? そんなことがどうしてわかるのかね?」
「私にはわかるんです」
神父が顔をしかめた途端、いきなり亜矢のずっと背後、つまり祭壇とは逆方向の正面入り口が大きくドバンッと開いた。
蹴り開けでもしたのか、鍵が弾け飛んだような金属音もした。
さらに、亜矢が聞き慣れた足音と同時に、嬉しい大声が響いた。
「サプラァアアアアアアアアアアアアアイズッ」
驚くほどの大声だったが、亜矢は思わず微笑んだ。
たちまち心が歓喜で満たされていく。
ああ……もう大丈夫……だって、守さまが来てくださったもの。
亜矢から聞いた場所にあった教会は、既に関係者が夜逃げして空っぽになった教会だった。石田氏に指示して、駐車場ではなく歩道の隅っこに停めてもらった。
そこで全員が降り、一応、周囲を警戒しつつ教会へ接近していく。
あとは、ルナに頼んで問答無用で正面入り口を蹴り開けてもらい、自分は「サプラーイズッ」とでっかい声だけ上げて、真っ先に入っていった。
まず、こちらに背中を向けたままの亜矢の無事を確認し、僕はほっと息を吐く。
そして、隣でルナが、彼女に踏ん付けられている青年を見て、「あいつはっ」と軋むような声を上げた。
意気消沈中らしく、同行した石田氏は沈黙したままである。
それはともかく、ここには亜矢以外にも僕の顔見知りがいた。
「おやおやおやっ。これはまた、奇遇な」
僕は唇の端を吊り上げ、我ながら邪悪な笑みを広げた。
「誰かと思えば、僕と縁の深い、インチキ神父じゃないですか。どうです、その後、元気にしてましたかー?」
「――っ! 貴様かっ」
せっかく陽気に尋ねてやったのに、向こうは呆然として僕を見返し、次に蹴飛ばされた猫みたいな勢いでいきなりぱっと身を投げ、手近な長椅子の陰に伏せた。
なんと失礼な。
「あ? なんですか、そのリアクションは。レンジャー部隊ですか、貴方は。せっかく久しぶり……でもないけど、とにかく再会したというのに、相変わらずですね。死ねばいいのに」
いや、本当に!




