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この少女を見たことがお有りか? この学校に在籍しているとは限りませんが


 ――話は数時間前に戻る。


 霧が丘高校の放課後、桜井亜矢はいつも通り、八神守が校舎を出てから十分に時間を置いて、席を立った。


 これは彼女のみが信じるルールのためで、自分の上位者であり導き手でもある「守さま」より先に帰るなど、許されることではないからだ。

 そこで当然、彼女が帰宅するのはいつも守の後となる。


 三年前に八神守に願いを叶えてもらって以来、彼が休みの日は別として、一日たりともそのルールを違えたことはない。

 ただし亜矢は、そのためにわざわざ校門を出るまで守を監視する必要はなかった。

 守が遠く離れると、なぜか彼女にはそれがはっきりわかるからだ。


 それどころか、おおざっぱではあるが、守の現在位置も見当がつく気がしている。おそらく本気で探す気になれば、守がどこにいようと見つけられる自信だってある。


 これは、亜矢にとっては特に不思議な現象でも超能力でもなく、「あの方がどこにいるかわからないようでは、むしろそっちの方が不思議だわ」と思っている。


 ……ともあれ、その絶対的なルールを守っていたが故に、桜井亜矢はルナや守より先に、いわゆる「敵」と遭遇することになる。






 守が校門を出てからしばらく待った後、亜矢はようやく席を立って廊下に出た。


 実は最近、ルールを別にしても、遅めの帰宅には大いなるメリットがある。

 まだデビュー公演前なのに、既にプロダクションのHPに亜矢のプロフィール入り写真――それもアイドルらしくドレスアップした写真が載ったせいか、早くも校内でそのことが知られつつあるのだ。


 困ったことに、わざわざ教室まで覗きに来る生徒もちらほら出始めているほど。


 守と自分のこと以外、関心事が全くないに等しい彼女としては、実にありがた迷惑な話である。それもあって、人が少なくなってから帰宅するのは、彼女にとってもメリットが多い。

 そしてこの日は特に、遅めに校門を出て正解だった。



(あら?)



 亜矢は、校門の影に隠れるようにして、陰気な痩身の男が立っているのに気付いた。

 いつもなら特に気にすることもないが、この男は確か、守さまの気配が校門を出た後、入れ替わるように登場した人ではないか?


 その時にちょうど、窓から校門の方を眺めていたので、覚えているのだ。

 しかも頭にソフト帽を被っているのでわかりにくいが、どうも日本人ではないような気がする。髪が金髪だからだ。


 日本人ではないと言えば、最近守さまに接近してきた吉岡さんも、どう見ても生粋きっすいの日本人とは思えない。だからという訳ではないが、なんとなく勘が働き、亜矢はわざとその男の真横を通った。


 男の方は特に反応せず、亜矢の方をチラッと見たのみで、すぐに校門の方へ注意を戻した。あたかも、そこを見張っているような態度で。


(誰か目当ての人を待っている……のかな?)


 予想した瞬間、亜矢は迷わず男に声をかけていた。






「ちょっとすみません」

「――っ!」


 明らかに大きく息を吸い込んでから、ソフト帽の男は亜矢を振り向いた。

 瞳は碧眼で、思った通り日本人ではない。


「……なにか?」


 用心深い声音で問い返された亜矢は、意識して笑顔を作り、逆に訊き返す。


「いえ、誰かをお捜しかなとふと思ったので。もし生徒さんなら、あたしが知っているかもしれませんよ」

「いや――」


 男が首を振りかけたものの、亜矢はわざと続けた。


「もう生徒の半分以上は帰っちゃいましたし、なにかヒントがあるなら、教えてください。本当にあたしが知っているかもしれませんし」

「そう……ですか」


 男は少し考え、思い切ったように顔を上げた。


「では、この少女を見たことがお有りか? この学校に在籍しているとは限りませんが」


 出された写真は小さく、しかもあまり見たこともないような形式だった。なにしろ、ぱっと見ただけで奥行きまで感じられる写真など、亜矢は見たことも聞いたことない。

 ただ……そこに映っている少女には、明らかに見覚えがある。


 ……遠くから写した横顔ではあるが、間違いなく、あの吉岡月夜だろう。

 

 

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