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僕が真剣に闇を望めば、明日の太陽はもう昇らない


「そうだな……あれだけ見たら、不気味に思えるかもしれないしね」


 僕は少し考えて、肩をすくめた。

 説明したところで、ルナが僕のめんどくさい能力についてぺらぺら話して回るとは思えないし、石田氏には口止めしておけばいい。


 それ以前に、彼はこの後で自殺する可能性もあることだし。

 僕は壁にもたれて腕組みし、隣に寄り添ったルナを見た。





「そんなに気になるなら説明するけど、くどいようだけど、あまり期待しない方がいいよ。メリットとデメリットが極端だから」


 彼女にはそう断り、まずはデメリットから強調することにした。

 メリットだけ説明すると、ひどく魅力的に思われるだろうから。


「ジェイコブズの『猿の手』って読んだことあります? 童話が元ネタになっていると思われる、有名な短編なんですけど」


 ルナが読んだことがあるわけないので、僕は駄目元で石田氏に訊いてみた。

 すると彼は、驚いたことに「読んだことあるさ。願いを叶えてはくれるけど、代わりにきっつい代償を要求するっていう、気味悪いアイテムの話だろ?」と即答した。


「ご存じでしたか。そう、そのアイテムが猿の手です。ミイラ化した気味悪いしなびた手ですけど、三度まで持ち主の願いを叶える効果がある」


 知っているなら、話は早い。


「いちいちここで全部解説はしないけど、例えばふざけ半分で多少の金を望むと、望んだ人の息子が工場で機械に巻き込まれて亡くなり、見舞金が入ったりする。……それも、自分が猿の手に望んだ金額、ぴったりの額で。こんな調子で、必ず望みは叶うけれど、同時に願いごとの代償をもぎ取るかのように、持ち主に悲劇が起きる。望みは叶えられるけど、決して期待通りにはいかない」


「その例はおかしいだろ」


 石田氏は盛大に顔をしかめた。


「さっきひどい目にあったのは俺一人で、八神、おまえは特になにもなかっただろうが」



「先走らないでください。あの有名な短編を持ち出したのは、僕の能力における反動が、多少、あの話と似ているからです。しかし、あくまで似ているだけで、その規模と根幹がまるで違う。共通しているのは、時に反動で、ろくでもないことが起きるところのみです。とはいえ、めんどくさいことに、それは毎回じゃない。僕の場合、完全にケースバイケースでしてね。さっきのような場合だと、特になんのデメリットもない。僕とやりあって怪我したり死んだりするのは、石田さんのみです。僕は終始安全なんですね、これが」



「……なんで俺だけ大損ぶっこいて、おまえは平気なんだ?」


 むちゃくちゃ不満そうに石田氏が言ってくれた。


「後から、それも説明しますよ。まだデメリットの方の説明が終わってませんから。これを教えておかないと、石田氏はおそらく、僕にいろいろ頼みかねませんからね」


 宥めるように言い聞かせ、僕は話を続けた。


「あの小説と違う点はまだあって、僕には特に謎のアイテムなんかいらない。しかも、猿の手は三度しか願いを叶えませんが、僕の能力だと無限に僕の望みを叶え続ける。もちろん、僕が漠然と突き止めたルールは存在しますが」


 一拍置いてルナと石田氏を見比べたが、ルナは引き込まれたように僕を見つめていて、石田氏は「おまえだけずるいだろうがっ」と愚にも付かない文句をブツブツ呟いている。


 まあ、だいたい予想通りだが……意外にも、二人とも、特に僕の話を疑っている様子はない。つい十分前に、偶然とは思えない現象を見たからかもしれない。


「もう一つ例を……こっちの方がより大事です。杞憂って言葉があるじゃないですか? 昔の中国の人が、天が落ちてくるのを心配したって逸話。まあ、取り越し苦労のことですね、簡単に言うと。有り得ないことを心配してしまうと」

 

 そこで余計なことを考えそうになって、僕は素早く意識を逸らせた。

 お陰様で、このやり方もだいぶ慣れている。


「……ところがです、仮に僕自身がその逸話の人物だとしたら、絶対に――いいですか、絶対に無事には終わらないんですよ。取り越し苦労では決して終わらないし、有り得ないことがいとも簡単に具現化する」


 ここが大事なので、二人がちゃんと聞いているか確かめた。


「僕の能力は、僕自身の望みも叶えてくれる時があるけど、逆に、僕の心配事もそのまま具現化するんです。全く真逆に能力が働いてしまう。そうなってくれるなと思ったことが、即座に実現してしまう。望みを叶えるのと同じくらい速やかに……あるいは、それ以上素早くね」


 反応を窺うと、二人揃って目を瞬き、しばらく考えた後――。

 石田氏が、柄にもなく遠慮がちに言った。


「いや……よくわからんのだが?」

「じゃあ、わかりやすく言い換えましょう」


 僕はもう、ずばっと教えてやることにした。信じる信じないは、この二人に任せよう。


「仮に今、僕が真剣に闇を望めば、明日の太陽はもう昇らない。同じことを真面目に心配しても、やっぱり明日の太陽は昇らない。ずばり説明すると、そういうことです。そして人間ってのは、余計な心配をする生き物で、僕もその例に洩れないんですよ」


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