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新人検察官セリア

ある1シーンを思い付いて膨らませた話です。

亀更新ですが、おつきあい頂ければと思います……。


8/17、「事件の概要」と合わせました。

次話は新しい話です。


「よし!」


専用のローブを着用し、きっちりと後ろに纏めた髪を鏡で確認すると、両頬叩いて気合いを入れた。

鏡に写る自分は軽く頷き、机に置かれていた筆記用具等の入った鞄を手にする。


「じゃあ、行ってきます!」


他に誰もいないけれど、何となく習慣になってしまった挨拶をして、セリアは部屋を出た。





タンドラ国辺境の地ハイデイ領、ナイハチムの町。



18歳になったセリアは、新人検察官に「なった」。

この「なった」という事実を思い返す度に、セリアは嬉しさが込み上げてくる。

なんせ、ここまで至るには意外と長かったからだ。


セリアは「神童」と呼ばれている。

3つ上の兄も優秀だが、4歳の時から兄に追い付かんばかりの才を見せ始め、8歳の時には、兄と一緒に領都の学院に特別枠で入学する事が認められた。

その後、学院生活はそれなりに色々悩み多き時期ではあったものの、兄妹ともに優秀な成績で卒業した。

そして、兄は王都で文官の職つき、セリアはナイハチムに戻って検察官の職つくことができたのだが。


その時点でセリアは14歳。


まだ、成人とみられぬ彼女に、受け入れた検察部も対応に困った。

子供で女性であるセリアは、通常ならば受け入れられない。前例もない。しかし、ナイハチムの「神童」自身が望むならば、優秀な人材として確保しておきたい。

それゆえ、かれらは彼女の役職をこうした。


「新人検察官見習い」と。


それから4年。

ようやく「見習い」がとれて、検察官の一員になれたのだ。

これが、嬉しくならないはずがない。

自然と廊下を歩く足取りがリズムを刻んでしまうのは致し方がないだろう。





ところで、ナイハチムには文官専用宿舎があり、セリアも「見習い」がとれてからこの宿舎入っている。

男女別に別れた東側の女性棟の部屋を出た後、階段を降り、共有の広いロビーに出たところで、セリアは声をかけられた。


「ーおはようございます。今朝もなにやらご機嫌なようですね、セリア」

「タインさん。おはようございます」


声の方を向けば、先輩男性検察官タインが、同じ種類のローブを着用して立っていた。

少したれ目の彼は、元気に挨拶を返すセリアの姿に、目を細めて微笑む。


「元気なのは良いことです。では、参りましょうか」

「はい」


タインは彼女の指導係でもあった。

毎朝、こうしてロビーで待ち合わせ、二人揃って近くの検察部のある町役所へと出勤するのである。


それは今日とて、同じはずだった。





「おは…」

「ややっ…。なんだ。お前たち、早いな」


検察部の部屋に入った途端、ふたりは上司のケネスと視線があってしまい、挨拶をしようとして遮られた。


確かに就業時間より早いが、それは1日の流れを打ち合わせするため。タインが処理する仕事を分別し、セリアに任せられる仕事を振り分けたり、一緒に取り組ませるのをスムーズに行うためだった。


だが、いつもはその時間に、ケネスが姿を見せる事はない。

ケネスは早いなと言うが、それはこちらの台詞である。

一体、どうしたのだろう。


「ちょうど良い。すぐに、憲兵隊のところへ行ってくれ」

「ー事件ですか。セリアを同行させても?」

「構わん。だが、タイン。少し、厄介な案件だ。慎重に頼む」

「厄介、ですか」


厄介の一言に、タインもケネスも自然と声を低くした。


「内容は殺人。しかも、被害者は貴族だ」


ー片田舎の小さな町で、大事件が発生した。






早夏の月、7日、早朝。

ナイハチム郊外、レキシナ邸にて事件発生。


●事件内容、傷害と殺人。

●被害者、 サーシル・レキシナ 子爵 30歳。 イヴァン サーシル氏付き侍従 23歳。

●容疑者、 ハインツ 冒険者ギルド所属 39歳。


●事件発覚経緯

早朝、レキシナ邸執事ロイドへ、部屋担当メイドより、主の不在を告げられる。

主の専属侍従、冒険者ギルドより派遣された護衛も不在とのことにより、執事ロイドは主の最近の習慣になりつつある、敷地内の高台テラスへの散歩ではないかと推測。メイドを伴い、高台へ向かう。

高台にて、人影を発見。近寄ったところ、護衛の冒険者ハインツが立ち尽くしていた。

ハインツの全身は血まみれ。片手にぶら下げて持つ抜き身の剣も血に染まり、ロイドが近づいても足元をじっと見つめていた。

足元には身を横たえた二人の男。専属侍従の青年と主サーシルであった。

メイドが叫びロイドが主に駆け寄ろうとも、ハインツは無反応。それは、知らせを受けて憲兵隊が駆けつけた時まで変わらなかった。

抵抗もなく拘束され、現在、憲兵隊詰所にて拘留されている。

被害者二人は血に染まっていたが、後に専属侍従は意識喪失していたものの、軽傷で生存を確認。サーシルは全身に刺傷の跡があり、出血多量で死亡が確認された。





憲兵隊詰所、応対室。

セリアは、先輩検察官タインの隣で、向かい合った憲兵隊の担当者から聞き取った、事件の概要を書きまとめる。

そして、ざっと内容を見直して、軽い嫌悪感を感じた。


ー容疑者も、被害者も、外から来た人だ。


ナイハチムは、権力者がいても、ほとんどが平民の町だ。

そんな町の郊外に、5年前、サーシル・レキシナ子爵は屋敷を建てた。

のどかではあるが、観光地も特産もないこの町に貴族が来る理由は何かと、当時は色々話題になったそうだ。

その答えは町長がすぐに出してくれた。

子爵は若くして体を壊し、療養の為に居を構えたのだということだった。

本人もあまり外出せず、貴族だからと周辺住民に上から干渉する事もなかった為に、静かにこの町に存在していたと言えるだろう。


冒険者ハインツは、他の冒険者同様、流れついてナイハチムに来たようだった。

基本的に一人で活動し、町周辺の魔物や野生動物の駆除はもちろん、雑用や剣術指南の依頼も受けていたらしい。

ならば、護衛の仕事もあり得るだろうが、サーシル・レキシナとはどうして繋がったのだろう。


それを調べるのが、セリアの仕事ではある。

が、やはり、外からの人というのを知ったせいか、何故ナイハチムで事件を起こしたのか、やるなら他でやってくれたらと、ちらりと思う。




「セリア。何やら難しい顔をしていますね。どうしましたか」


気付けば、担当者と言葉を交わしていたタインが、顔を覗き込んでいた。


「も、申し訳ありません。何でも…いえ、貴族が関わる事案は大変そうだな、と」


タインは、ああ、というような表情を浮かべた。


「確かに。この町は、貴族とは無縁でしたからね。少々騒がしい事にはなるでしょう。ただ、容疑者の行く末は極刑で間違いありません。それほど、長い間ではありませんよ」


セリアは頷く。

例え被害者がどんなに悪党でも、容疑者にどんな理由があろうとも、平民以下が貴族を直接手にかければ、死は免れない。それが、この国の法なのだ。

大変な事案だが、結末は見えている。タインは指導係を任されるくらいナイハチムでは優秀だが、新人のセリアを付けても良いと上司のケネスが許可したのはこれが一つの理由だろう。

大変だが、滅多にない事案。勉強してこい、ということだ。


「それでも私達は、役割を果たしましょう。事件関係者や私達だけではなく、今後の後輩達の為にもね。ですから、セリア。記録をしっかり取って下さい」

「はい」

「では、容疑者の聴取に参りましょう」




主人公は転生者ではありません。


検察官やら憲兵隊やら、実際の役職を正しく表現出来ていないかもしれません。

そういう世界観としてくれたら、助かります………。

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