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第三話

 いつも通り、ベッドとの親交を深めているときに、その出来事は起こった。


 ピンポーン!


「うん?」

『珍しいわね。お客さん?』

「どうせ勧誘かなんかでしょう。ささっと断ってきてください」


 ベッドの脇に立てかけてあった刀を片手で放る。

 すぐさまいつものメイド服姿になって、コドクは溜息を吐いた。


「自分で行くって選択肢はないの?」

「ないです」

「……あっそ」


 いかにも面倒と言った調子でコドクさんが部屋を出る。


 ……本当に忠誠心も何もないメイドだなー。

 まあいいけど。


 しばらくベッドでごろごろを続けていると、


「……ご主人様」

「ん?」

「誰なんですかこの子?」

「え?」


 引きつった表情のコドクさん。


 それだけなら時折見かける表情ってだけなのに……


「えー、と……?」


 俺も自分の顔が引きつってるのが分かる。

 うん。だって……


「…………」


 俺、こんな幼女の知り合いはいないんだけど?


「どちら様、ですか?」

「…………」


 意を決して問うも、無言が返ってくるだけだった。


 じっとこちらを見つめる幼女。

 長い、綺麗な白い髪と、同じくらい白い肌。

 

 髪と同じ色の毛に覆われた狼の耳と尾。

 獣の如く金色に煌く瞳。


 白いワンピース。しかしその背に背負っているのは、その可憐な衣服とはおよそ似つかわしくない、無骨な長剣。


 華奢で小柄ながらも、その体躯から感じられるのは、まるで猛烈な吹雪のような、強い魔力。


 異世界――俺からしてみれば同郷の、それもそれなりの実力者であるとすぐに知れた。


「…………」


 幼女は無言を貫き通す。

 じっと金色の瞳が、俺を見つめている。


「あの……?」

「…………見つけた」

「え?」


 がばっ!


「やっと、やっと見つけた……!」

「え、えーと……?」


 本日何度目か分からない、戸惑いの声を上げる。

 でも、それも仕方ないだろう。


 名も知らぬ幼女が、俺に抱きついてきた。


 なにこの状況。


「ご主人様……。いくらエロ触手だからって、こんな幼女誑し込むとか、ちょっといままで以上に失望するわ」

「いやいやコドクさん、ずっと一緒なんだから、俺が無実だって知ってるでしょう!?」


 コドクさんがすっげー冷たい目で俺を見る。


 やめてー、そんな目で俺を見ないでー。


「でも、ご主人様のことを知ってるようですけど?」

「……だよねぇ」


 見つけたって言ってたしなー。

 ……話を聞いてみますか。


「ごめんなさい、正直俺は君の事を覚えてないんです」

「…………ん」

「俺は、いつ、どこで君にあったんですか?」

「……随分昔、多分百年くらい前。森の中で、まだ幼いわたしを助けてくれた」


 百年前……?


 !


「「あの時の白い魔狼!?」」


 綺麗にコドクさんとハモる。


 そうだ、思い出した!

 昔、確かに小さい魔狼を助けたことがあった。

 ああ、あれももう、百年前になるのかー。


「フェリンっていう」

「フェリンさん、ですか? 俺はアルドレイン・アジャスター。長ったらしいので、アレンと呼んでください」

「あ、わ、わたしはコドク。好きに呼んでちょうだい」


 とりあえず自分たちの名前も伝える。

 さて、


「随分強くなりましたね?」

「あれからずっと戦ってばかりだったから、自然と強くなった」


 魔狼とは、灰色の毛並みが特徴の、とても強力な狼の魔物だ。

 産まれて、ある程度育ったその時から、たった一匹で戦い続け、生き抜くことを義務付けられる、孤独な魔物。


 しかし、目の前の彼女――白い魔狼は、その毛の色から親に見捨てられ、本来ありえない幼さでただ一匹彷徨っていたのだ。


(ご主人様、まさか可愛い子になるのを見越して……)

(なわけないでしょ。というか、あの時はかわいそうかわいそう五月蝿かったの、コドクさんだったじゃないですか!)

(そうだったかしら?)

(そうでしたよ!?)


「?」


 目の前でごにょごにょやりだした大人に、きょとんとした表情のフェリンさん。

 ごほん、と適当に咳払いし、彼女に向きなおる。


「……えー、それで、なんで俺に会いに?」

「勇者の役目も終わったから、会いに来た」


 それは嬉しい……けど、気になるワードがあった。


「勇者?」

「ん。これでも勇者だった」

「魔王倒したんですか?」

「ん」

「勇者の剣を引き抜いたんですか?」

「ん」

「確かに、それだけの実力なら、嘘ではないでしょうけど……」


 しかし大したものだ。

 まさか、勇者にまでなっていたとは。


「それで、これからどうするんですか?」


 こんなに頑張ったんだし、これから何かするつもりなら、手伝いくらいはしてあげたい。


「折角だから、家庭を持って落ち着こうと思ってる」

「へぇ」

「そこでお願いがある」

「なんでしょうか?」


 お婿さん候補を紹介して欲しいとか、そんな感じだろうか。


「結婚して欲しい」


 ぴしり、と一瞬空気が固まり、驚きのあまりコドクさんが刀に戻った。


「はい?」

「ダメ?」

「いや、その前によく分かりませんが……」


 目の前の合法ロリのセリフがちょっと理解できなかった。


 はい?

 結婚って?


「お婿さんになってください。一生養います」

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