第一話
誰にだって向き不向きはあるものだ。
それを長く生きた分、俺は理解していたつもりだ。
だからこそこうも思う。
(ああ、やっぱり、このベッドでごろごろするのが最高だ……)
このまま一生を無駄にしたい。
むしろ無駄にした上でこのベッドと共に朽ち果てたい。
至福のため息を吐き、枕に顔を埋める。
世界が融合してから凡そ百年。
もう隣に異世界――いや、元・異世界があるのが、とっくに当たり前になった時代。
高校生が進路に冒険者と書いたり、本物の猫耳を生やした女の子がメイド喫茶でバイトしていたり、ドラゴンと人型兵器が戦ったり、サラリーマンが薬草の商談纏めたり……。
色んなものが様変わりして、それがあって当然になった時代で、俺――アルドレイン・アジャスターは、のんべんだらりと、屑ニート生活を楽しんでいた。
平穏な異世界での生活。勿論働く気はない。
俺がベッドから動いたのなら、それは食事か買い物か排泄か、はたまた、パソコンでネット小説を見るためかだろう。
こうやって無為に一日を貪り、気の赴くまま時間を好きに使い潰す……。嗚呼、正に至福の時である。
世間一般では、俺みたいなのを駄目人間と呼ぶらしいが、正直どうでもいいのである。
世間体なんてもの、今の生活をぶち壊すレベルでなければ放っておけばいい。
だが……俺のその崇高な理念をぶち壊しにかかってくる者が、あろう事か、我が家の中に潜んでいるのである。
「さっさとベッドから起き上がりなさいよ、ご主人様」
一閃。
マジで殺す気なんじゃないかなどころか、これ絶対に殺しにかかってるよねレベルの一閃。
俺はそれを無造作に避け、一つ溜息を吐いた。
「……コドクさん? 俺の崇高なる業務を邪魔しないでくださいよ。この駄メイド」
いつの間に部屋に入ってきたのか、刀を振りぬいた姿勢で俺を見つめる、メイド服の少女。
長い黒髪と、人形のように、丹精な顔立ち。
メイド服に身を包んでいるくせに、その表情には忠誠心の一欠片も見当たらない。
彼女の名前はコドク。
俺の愛刀兼(駄)メイドである。
「さっさと起きなさいよ。ご飯が冷めるでしょ?」
「はいはい」
随分とご立腹のようだ。
彼女は怒らせると面倒なので、ここは大人しく従っておく。
さて……今日はどんな|物語(ネット小説)に出会えるのか。
……
「〜〜〜〜〜〜っ!」
おもいきり伸びをする。
身体のあちこちからバキバキと音が鳴る。
ずっと同じ姿勢だったから、肩が凝ったのだ。
「……まったく、他に何かやることはないのかしらね……?」
「お小言は十分ですよー」
やれやれと首を振るコドクさんに、俺はテキトーに返し、パソコンからは目線を放さない。
ネット小説が俺の生きがいである。
そして、この生活こそが、俺の生き様なのである。
……駄目人間だが悔いはない。
だって俺、触手だもの。