第四十四話
わたしはひどく混乱していた。
周りでわたしや先生以外の生徒がみんな倒れている。この静けさから察するに、きっと他の教室も同じ状況なのだろう。
いや、それはまだいい。この先生なら眉一つ動かさずやってしまうだろうし、焦った様子もないからまあ問題ないと判断できる。その後が問題だった。そしてちょっと安心してしまったボクが馬鹿だったのだ。
この人がそんなあっさり事態を終わらせるはずがないのだと。
「――だって、彼女が貴女の転生先じゃないですか」
そう先生は言い切って、ボクをびしっと指差して――――――――え?
「ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええっ!?」
「いや、そんなに驚かないでくださいよ」
「驚きますよっ!」
何それボク聞いてない!
「そもそもドラゴンってなんですか! 絶滅したんじゃないんですか!」
「いえ、生き残っていますよ? それほどの数も、元の姿もしていませんが、当時を生きていた者は何体か生存しています。……いえ、生存というより、現存でしょうか?」
「ええ……」
もう何がなんだかわからなくなってきた。
(それにしたって……)
ボクは勇壮なその異形の獣に視線をやった。
……ドラゴン。
遥か古の時代、人間が傲慢を極めた「剣の時代」。その幕を引いた「炎の時代」。「剣の時代」に滅んだとされる種族である。
現代でも竜種と呼ばれる存在はいるが、彼らとは比べ物にならない力を持っているとされている。
……ここまで見事に推測塗れなのは、当然ながら理由がある。「炎の時代」の存在自体はほぼ確実だが、当時やそれ以前の記録がほとんど残っていないのが原因だ。かつて栄華を誇っていた人類の文明はここで一気に衰退してしまったため、その記録もほとんどが喪われてしまった。
「炎の時代」以前、「剣の時代」。人類は世界すべてを掌握しかねない程に力を身に付けていたらしい。それこそ、絶対的な力を誇るドラゴンさえ屠ってしまうほどに。しかし、ただ一頭のドラゴンにより始められた「炎の時代」によって、人類は自身が絶対の霊長などではないと自覚することになる。
その名前だけは、その存在だけは、はっきりと残されている。「剣の時代」の幕を下ろした、最強最悪の存在。絶望の権化。――本物の霊長。
竜王。
ドラゴンだと、ドラゴンの内の一頭だと記録に残っている。
果たして、それが真実なのかどうかはわからない。それらを証明する手段は遥か過去の時代に灰燼と化し、竜王自体もその行方が判らない。
真実は何処にもありはしない。
ドラゴン。白い、ドラゴン。
あれは、その時代の忘れ形見なのだろう。
彼の口ぶりからして、あのドラゴンは竜王ではないらしい。
……いや、それどころか。
(――竜王?)
先生は、愛しい彼女の父親は、そう呼ばれていたのだ。
……
『――――わたしが、わたしがわたしでは、ない……?』
声音から困惑と確信、そして絶望が伝わる。
「ええ。そうです」
『……違う』
「違いません」
言葉を重ねる。
彼女を現実から逃がさないために。
『違う、違う違う違う違うっっっ! わたしは、だってわたしは、ずっと眠って、生き残って……!』
「いいえ、死にましたよ。クリムゾンさんやブルーさんみたいに、人間に敗北して。正しくは裏切られて。人間に見切りをつけず、信じ続けた末に」
『……やめて』
やめない。
「皮肉ですよね。ただ自分の役割に忠実だったレッドさんや、命を眺め続けることを望んだグリーンさんや、ただ人を殺し続けたブラックさんは生き残ったのに、人を信じ続けた貴女は死んでしまったなんて」
『………………ヤメテ』
「別に同情はしません。否定もしません。それは貴女の選択だ。貴女の選んだ結末だ。だから消え去りなさい。貴女は見るに不快です。たかが妄執如きが、彼女の結末を汚さないでください。醜くこの世にあり続けないでください」
『…………………………ヤメロ』
もの凄い圧力の視線がまっすぐにこちらを射抜いてくる。
だが、やはりやめない。
……やめてはいけないのだ。決して。彼女の為にも。
「……サーヴァント」
《了解》
強引に格納庫の扉をこじ開け、赤と白銀に彩られた機体が躍り出る。
大きく跳躍した鋼の巨人は、教室の外に降り立った。
『なんですか、それは』
「貴女に終わりを告げるモノですよ」
解放されたコクピットに滑り込み、閉鎖。
モニターに光が灯り、機体のセンサから読み取られた情報が映し出される。
……そういえば、コイツに乗るのも随分と久しぶりのことだった。
「――――全権行使」
瞬間、俺の中で廻る回路が組み変わり――懐かしい魔力を全身に滾らせた。
俺から漏れ出す変質した魔力が――青い炎が、魔動機士の回路を駆け巡り、莫大な力を与えていく。
まるで命を吹き込まれたかのように、サーヴァントはその機体を鳴動させ立ち上がった。
『竜王の、魔力……!』
「全力で、叩き伏せましょう」




