第四十一話
で、今日も今日とて殺されているわけである。まる。
寝転んでいる地面がひんやり冷たい。
「か、勝てない……というか、かわせない……」
「んー、惜しいところまでは来てるんですけどねー」
「正直惜しいもへったくれもない気分ですよ……」
がくがくと震える足に鞭打って、ボクはもう一度立ち上がる。
「あと一歩ですよ。踏み出せれば道は自ずと開けます」
「それ、大分聞いてますよ」
なのに、一向に成長できている気がしない。
いや、確かに成長しているのだろうけれど、相手が強大すぎてその成長はしばらくはなんら無意味だろうし、そもそもその方向性さえ間違っている様な気がする。
仮にそうだとしても、今のボクはこれ以外の方法がわからないのだけれど。
「くっ、まだまだぁ――!」
「はいはい。ちゃんと付き合いますから、急かさないでください」
再び構え、気炎を吐いて、ボクはもう一度彼と向き合い――
「ぎゃぁあああああああああああああっっっ!」
……また殺されたのだった。
……
「勝てない、勝てないよぉ……」
そろそろ心が折れそうだった。
というか、本気で勝てる気がしないのだ。
あの人、容赦の欠片も無しに殺しにかかってくるんだもん。
手足を潰すまでもなんだか段々とじっくりとやってる感じだから、余計に痛いし辛い。おまけに顔は終始笑顔で、その表情からピクリとも動かさないのだ。普通に怖い。
それでも、雰囲気から真面目にやっているのが分かる辺り、頑張ろうと思ってしまうのが余計にたちが悪いったらないし……。
「うぅ……でもいい加減ツライ……というか先が見えないし…………」
ふと思い浮かぶのは、先生の攻撃。
あんな鉄の塊みたいな武器を、早く、鋭く、目に見えない程の速さで使い、手足を潰しにかかってくる。
……いったい、どれだけの鍛練を積めば、そこまでの実力が付くのだろう。
彼を殺せるようになるだなんて、今のボクにできるんだろうか。
「……いつか、届くのかな」
ぽつりと呟いた言葉には、びっくりするくらい力がなかった。
……
大地が、赤々と燃えていた。人々は逃げ惑い、或いは炎に飲み込まれ、悲鳴を上げながら絶望している。
随分懐かしい記憶を振り返っていた。
思い出すことも、自分を認識することさえも久しくなかったというのに。
……人間は、また数が多くなっているようだ。
以前のように、傲慢な進歩こそしていないけれど、十二分に脅威になり得るだろう。
それでも、まだ見過ごして問題がないレベルだ。以前ほど危険というワケではないのだから、まだ静観していられる。
しかし、どうしてだろう。
何故、わたしは今更――――
『ああ、君達は本当に愚かだ。俺では救いようがない程愚かだ。……もういい。後の全部、俺が一切合切焼き払う』
――そうだ。
近くに彼が居る。
……
「…………おい、ちょっと待て。なんだこの書類!?」
「どうされましたか、学園長?」
「ああ、リーゼリット先生……この魔動機士の使用許可って…………」
「……アレン先生です」
「やっぱりかぁ……」
「……あの、学園長……いったいどういう意図があって、アレン先生をこの学園へ呼んだのですか? 学園長に深い考えがあるのは分かります。しかし……彼は異質過ぎます。教師にしても、魔法使いとしても、冒険者としても」
「ああ…………いや」
「…………?」
「聞かないほうが良い。知りたいってのも、納得できないってのも判るけれどさ。……知らない方がいい。絶対に、ワザワザ知りがるようなモノじゃないからな」
「…………」
「ま、アレン先生は敵対さえしなければ一応無害だ。好奇心は猫を殺すってもいうからな。あんまし嗅ぎまわんなよ?」
「もし……嗅ぎ回るような猫がいれば?」
「その時は、真っ先に俺が殺すだろうな。この書類、許可出しておくから、アレン先生に伝えておいてくれないか?」
「……承りました」
……
「……拙いなぁ」
「どうしたの、アレン?」
「いえ、そろそろちょっと大掛かりな事が起こる感じなので、少々気が滅入るといいますか……まあ、面倒くさいってだけだよ」
「……ん。判った。でもね――」
「フェリン――!?」
ちゅっ
「困ったら、いつでも頼って、旦那様」
「…………了解。かっこ悪いとこ、見せられないなぁ……」




