プロローグ3
(ああ、憧れのマイホーム!)
一人の青年が歓喜の表情を浮かべた。
黒髪に赤い眼の、旅人の服に身を包んだ青年だ。
目の前には、少し大きめの木造の家がある。外見から言えば、人一人生活する分には、まったく申し分のないものだろう。
(これで、これでおもいっきりだらだらだら出来る……!)
この青年、何を隠そう触手である。
百年間、魔力を高め、遂には寿命を超越したのだ。
かつて呑み込んだ妖精の女王も、今は居ない。
消化したわけではなく、魔法で全部を補えるようになったため、逃がしたのである。
現在は外見を変更する能力――擬態に強化に強化を重ね、それこそ魔法で調べられても、全く感知されないレベルに仕上げている。人間に紛れて生活……とまではいかないものの、町に出ても、触手だとバレることはない。
そして、目の前の家は、頑張って一人で建てた物である。
ちなみに、そのために姿を変えて大工に弟子入りしたりもした。
(あー、長かった。マジでこの姿になってからが長かった)
ざっくり十年以上はかかった。
ちなみに触手は二、三年で済むものかと思っていた。
が、親分に気に入られて、結局全ての技術を叩き込まれた。
(良い人だったんだけどなー。流石にあそこまで長くなるとは思っていなかった)
この百年、様々な人間に触れ、触手も様々な考え方を知った。
お陰で、以前ほど鬼畜な思考はしなくなっていた。
触手は家の中でくつろぐ。
特に念入りに、素材からこだわったベッドの感触は最高だった。
それはもう、このままここで朽ち果てても良いと思える程――
――それからまた、幾星霜もの年月が過ぎていった。
……
世界は変わった。
妖刀が魔王となり、全ての刀が呪われた。
そしてその魔王を、初代勇者が倒し、勇者の剣を遺した。
それから勇者教が出来、世界の安定に尽力した。
やがて傲慢に成り果てた人間に、竜王が罰を下した。
この時勇者の剣は誰の手にも扱えず、人間は自らの行いを悔いた。
それから随分と歴史の流れたある日、世界は融合した。
魔力が表立っては存在せず、別の発展を遂げた世界。
そこで巻き起こる戦争を、救世主率いる勇者教が全て鎮めた。
安定を続ける世界に、魔神が顕現した。
大賢者が現れ、同時に現れた勇者と魔王と異世界の戦士と共に、世界を救った。
多くの技術が、異なる技術と組み合わさり、新たな発展を遂げた。
かの世界が誕生して幾星霜――
融合した二つの世界は、完全にとはいかなくとも、平和になったのだった。