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どこぞにて、妖刀と旅人の語らい

 予告どおり本編で幕間短編です。

 コドクさんメイン……の筈です。

 メインだよな!?

 月を見上げて溜息を吐いた。

 夜でもやっている変わった茶屋で、コドク(わたし)は一息ついていた。


 ――随分変わったと思う。

 アイツもわたしも、出会った時にはまるで考えられなかった生き方をしているのだから。


 まさか、アイツが家庭を持つなんて。


「あなただって予想していなかったでしょう、トラベラー」


 後ろでずず〜っと熱いお茶を啜っていた、黒髪赤目の男――ハールムート・トラベラーに声をかける。


「うんにゃ、そうでもないね」

「え?」

「アイツはそれが一番楽だとは理解していた。経験していたからな。そもそも産まれついての願望でもあった。ただ理性で押さえ込んではいたが、生物としての欲求だってちゃんと持ち合わせていたし、ある程度人間に触れてお人好しな部分もあった。正直、ここまで誰ともくっつかない……つーか、好意を抱かなかったことが意外だね」

「……確かに、そうだけれど」

「俺はあんたとか最有力候補だと思ってたんだが」

「そりゃないわ」

「ないか」

「ないわ」

「んーでも、アイツが悪い奴じゃないってのは、あんたも分かってんだろ?」

「流石にこうも長く一緒にいればね」

「で、俺はそのままくっつくと踏んでたんだけど……まあ、予想が外れたな」

「悪かったわね」

「別に悪いとは言ってねーよ」


 三色団子に舌鼓を打ちつつ、ハールムート――ハルトがこちらを向く。


「お前さんはどうなんだ? アイツのこと、どう思ってる?」

「……改めて聞かれると、なんとも答えづらいわね」

「なんだ。そういうこと考えなかったのか?」

「楽だったのよ、アイツの言うとおり。考えなくたって、あーいう馬鹿みたいな関係ではいられたわ。殺しあった仲で、お互い遠慮なんてなしだったし」

「あー……」

「正直、アイツと一緒に居るのは居心地がよかったわ。考えなくていい。踏み込まなくていい。何もないけれど、穏やかで……本当に楽だった」


 ふわりと風が吹いた。地面に落ちていた桜の花びらが舞う。

 わたしの着物の袖に一枚張り付いたけれど、その着物も、黒地に桜の模様が入ったものだから、一瞬何処に張り付いたのか分からなくなる。


 途端に風に乗って、模様に見えた花びらが一枚、夜空に浮かぶ月を目指して飛んでいった。


「好意があるないで言えば……あれだけ一緒にいたんだもの、多分、あるわよ。でもね、それを無理に形にするつもりはないわ。今のままで十分わたしは幸せだと思うし、それに――」


 ふと思い出し笑いをする。

 結局、また名前を呼び損ねた。

 つまらない意地を張っている気はないのだけれど、あの人を忘れてないのも事実で。彼と彼女の日常があの人との日々を思い出させるのも事実だった。


「見てるだけでいいわよ、あんなのは」

「……違いないな」


 少々苦笑気味に、ハルトがもう一つ団子を口に放り込んだ。


「ていうか、そーいうあなたは結婚しないの?」

「しないね。するつもりもない。……今のところはな」

「なんで?」

「俺が旅人トラベラーだからさ。家族は俺が旅に出るには邪魔になる。旅する仲間とは一つの町の間だけって決めてるし。まあ、誰かとずっと一緒ってのは、旅に飽きたらでいいさ」

「……そう言って、あなたどれくらい旅を続けているわけ?」

「黎明期から、ずーっとさ。この世界が始まって直ぐに生まれて……でかくなって、今までこうして旅をしてるから……アイツの歳から俺の子供時代引いた分だな」

「それはまた、随分長いわね」

「どうしようもない性分でな。やめるにやめられんし……そもそも、この世界は俺を飽きさせてはくれないさ」

「……妙に含みのある言い方ね」

「そりゃそうだ。含んでるから、当然だろう?」


 にやにやしながらもう一口茶を啜す。


「どうにも、この世界は気付かないうちに融合しているらしい。存在基盤やら基礎概念やら認識法則の適用やら……まあ細かい話はわからんが、そいうのの齟齬がでかすぎて、前回のあのすったもんだは起きたんだってよ」

「……なによ、それ」

「クリエイターに聞いた。他の全権持ちも多分気付いてんだろうな。恐らくは首突っ込んでいる連中とか、当事者の連中も居るんだろうけど……まあ、関係ないな」

「おもしろそうな話……ってわけでもなさそうね」

「んー、まあ、気がつけばそうなってるって話だな。正直考えてもしょーがないことでしかないし、クリエイターも特に迷惑をかけることはないっつってたし……、気にしなくていいだろ」

「適当ね」

「適当でいいからな」


 コドクの呆れ顔に軽口を返し、彼は立ち上がった。


「じゃあな。その内そっちに顔を出す」

「ええ。といっても、もう暫くはわたしも戻らないけれどね」

「どっか行くアテでもあるのか?」

「ちょっとお墓参りにでも行こうかと思ってるのよ」

「そうか……また会おう」


 ひらひらと手を振りながら、ハルトは夜闇の中に消えていった。


「……世界が融合している、か」


 一人残されたコドクは、静かに呟きながら、自分の茶を啜る。


「そんなんじゃ、いつまでたっても旅が終わらないわけね」


 自嘲気味な微笑みを浮かべて、彼女は茶碗を置いて立ち上がった。


「……ま、わたしも大差ないけれども」

 ハールムート・トラベラー-―ハルトは初登場ですね。

 ずいぶんおじいちゃんで実力者な彼です。どこぞの触手みたいに勇者になることこそありませんが、割とちょこちょこ他のお話に関わっているキャラです。

 ちなみに全権持ちのただの人間です。……人間の全権持ちを書くのはコイツが最初かな。

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