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第二十三話

 いつか、御伽噺に聞いた英雄。


 ――大賢者。

 勇者と、魔王。相反する役目の英雄二人を結びつけ、異世界の戦士さえ味方につけた、稀代の魔法使い。


 そんな彼のような人間に、いつか仕えてみたいと思った。


 茶色の髪の毛に、青い瞳で眼鏡をかけていたと、当時に記録に残されていた。

 一度だけ写真を見たことがあった。


 その彼の顔が、黒い髪、赤い目の青年のモノと入れ替わる。


 優しく微笑んだ表情を、思い出す。


 ……私は、あの時――


 ……


「結局引き篭もってるじゃない」

「ですよねぇ……」

「ご主人様、転移してたみたいだけど、人目のないところでまさか……」


 コドクさんの視線が刺さる。

 というか、軽くぶっすり刀が刺さってる。


「痛いでーす、コドクさん。あと無罪を主張します」

「本当に手は出してないの?」

「フェリンさんにだって手は出してませんよ?」

「いくら合法だからって、あの子に手を出したら、それこそ事案モノよ……」


 そりゃそうだ。


「いや、俺が賢者やってたって教えただけですよ」

「ん? ああ、それじゃ、転移先って最初の家?」

「はい」

「あれ? じゃあ、なんでティアナは引き篭もってんのよ?」

「俺が聞きたいですよ……」


 ほんとマジで。

 あっれ〜? 何か拙かったのか……?



「一応話はしときなさいよ?」

「……はい」


 まあ、結局これから彼女がどうするのかとか、全然聞いていないし、よくよくお話はしないと駄目だろう。


 ……面倒なほうに、話がいかないと良いな。


 ……


 こんこん、と最早馴染みになってきた部屋のドアをノックする。


「ティアナさーん。入りますよー」

「…………大賢者様」


 がちゃり


「その呼び方、止めてくださいよ」

「しかし……っ!」

「俺はただのエロ触手です。それ以上でも以下でもありません」

「……分かり、ました」

「あと敬語もやめてください。なんか気持ち悪いです」

「きもっ……!?」


 愕然とした表情をするティアナさん。

 すぐに顔を赤くして怒鳴る。


「そ、それが敬意を見せている淑女に言う言葉か!」

「そうそう、その調子でいいんですよ。そっちのほうが似合ってますし」

「むぅ……」

「で、なんで引き篭もっているんですか?」

「いや、その……憧れた偉人がエロ触手だという事実が、どうも……」

「あー……」


 確かに、それもショックだよねー。


 失敗した。マジで失敗した。

 やっぱ安易にあーいうこと教えるのは良くないのか?


「やっぱり、エロ触手にいいイメージって、ないですよねー」

「まあ、それはそう、だな……」


 世の中そんなもんだよねー。

 俺だって、エロ触手がいい生き物って口が裂けても言えないし。


「……わたしの先輩がエロ触手に捕まってな。その時のことが、どうにも忘れられない」

「それが一般的な反応でしょう。一応、俺は人間を襲ったことはありませんよ」

「……だろうな。アレン殿が、そういうことをするとは思えない」


 ふっと笑って、ティアナさんは顔をうつむけた。


「結局、私は何がしたかったのか……。侮っていたわけではないんだが、あなたがここまで遠いと思わなかった」

「また気持ち悪いティアナさんに逆戻りですか」

「気持ち悪いとか言うなっ!」

「で、これからティアナさんはこれからどうするんですか?」

「さて、どうしようか……それを悩んでいる」

「そうですか」

「暫くはこの家で世話になる」

「ええ、分かりました」

「それと……アレン殿。フェリン様を、よろしく頼む」


 そう言って、彼女は薄く微笑んだ。

 それが無性に嬉しかった。


「勿論ですよ、ティアナさん」

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