第二十一話
決闘当日。
「準備はいいか?」
「ええ。問題ないですよ」
場所は故郷の誰もいない森の、開けた場所。
転移魔法で、俺とティアナさん。ギャラリーの二人も連れてきたのだ。
静かなティアナさんの声に、俺は頷いた。
彼女は青い鎧を身につけ、腰に下げていた長剣を構えていた。
力量が測れないことには気付いているようだ。
同時に、最大の警戒をして、俺の攻撃を防ぐつもりだろう。
俺の格好はいつものジャージというふざけたものだ。
というか、最初っから力量が測れないことには、彼女は気付いていたのだろう。
力量が測れないのは、本人がそれを巧妙に隠しているか、あるいは遥かに実力がかけ離れているか……どちらにしろ、自分より格上ということだし、そもそもそんなことも分からない人物が、勇者と共に旅をする「青の騎士」になんて、なれる道理もない。
だから、彼女は俺が彼女よりも強いことは、とっくに理解しているはずなのだ。
それでも、彼女はそれ理由に泣き寝入りなんてしたくなかったのだろう。フェリンさんのことを案じていたのだろう。
それが、あの態度で、この決闘というわけだ。
「全力とまではいきませんが……本気でやらせていただきます」
回路を接続。
リミッターを限定解除。
手元に魔方陣を浮かばせ、手を突っ込む。
ずるりと引っ張り出されたのは、六角の柱に柄を取り付けたような、無骨な打撃武器。
俺のおおきなおともだち――ベリアルハンマーである。
「いきますよ?」
瞬時に加速。間合いを詰める。
腕の力だけで、その鉄塊を振り下ろした。
一瞬後、状況を理解したティアナさんの表情が、驚きに染まった。
「っ!?」
ゴッ! という硬質な音。
同時にティアナさんの足が地を離れた。
「な、に……?」
驚愕の声を無視し、ベリアルハンマーを振り抜く。
そのまま吹き飛ばされ、ティアナさんはおもいっきり背中を樹に叩きつけられた。
最初の上段からの一撃。あれはフェイントだ。
そちらに意識が行った瞬間、ベリアルハンマーを引き戻し、横薙ぎの一撃を、がら空きの彼女の腹に叩き付けたワケである。
あの武器の形状では、咄嗟のフェイントなどかけられないという、その先入観を逆手にとったのだ。
「く、ぅぅ……」
「大丈夫ですか?」
腹を押さえて呻く彼女に駆け寄る。
「手加減はしたのですが……無理に動かないほうがいいですね。少しじっとしていてください」
「何を……?」
「――権限行使」
屈んで手を差し出す。
回復魔法を使い、彼女の負傷を全て癒す。
……流石に、内臓がいくつかおしゃかになりかけていたか。加減の仕方を考えないとな。
でも、彼女の心意気は中々に好感を持てるものだったし、それに手加減をするのは、なんとなく気が引けた。
結果、殺すつもりはなくとも、完膚なきまでに叩くつもりでやったのだが、彼女はあくまでも常識内の人間だ。
もう少しやりようがあった。今回の件は、次に生かしていこう。
「ぅ、あ……?」
戸惑った表情の彼女に、確認する。
「もう痛みはありませんか?」
「あ、ああ」
「なら良かった」
彼女の手を取り、立ち上がらせる。
勝敗は……問うまでもないだろう。
「…………」
無言で俺は、転移魔法を発動させた。
……
ベッドの上で俺は溜息を吐いた。
帰ってくるなり、ティアナさんが部屋に引きこもってしまったからである。
「とりあえず、フェリンさんを強引に連れて帰るなんて事は、しないよね?」
「そうね。騎士って、そういうところは義理堅いしねー」
条件付けした決闘。
それに負けた彼女が、その約束を反故にすることはまず無い。
「でも、ティアナさん、部屋に閉じこもっちゃいましたよ?」
「うーん、やっぱりショックだったんじゃないの?」
「何がです?」
「あんなにあっさり負けちゃったことよ。あんたみたいなニートに、こんなに簡単に負けたら、そりゃあ、今までの人生なんだったのかー、とか考えちゃうんじゃない?」
「納得は出来ますけど、すごい失礼ですね、それ」
でもまあ、確かにそうだろう。
彼女は物心がついてからは、ずっと騎士となるべくして生きてきたはずだ。
最初のフェイントに反応できる時点で、人間としては、あの見た目の若さから考えて、十分驚異的なのだ。
そもそも生きている時間も違うし、踏んでいる場数も比べ物にならない。
彼女は、負けて当然の勝負に負けただけのことだ。
それでもショックはショックだろう。
彼女にとっては、今までの人生を否定されるようなものなのだろう。
……ケア、というか、話くらいはしないと拙いかもな、これ。
ベッドから起き上がり、俺は部屋を出た。
おおきなおともだちのデザインは、六角形の、身の丈程ある金棒と思っていただければ大丈夫です。




