第十六話
「ぅ……?」
小さな声を上げて、ティアナが目を覚ました。
「ここ、は……?」
ベッドから上体を起こす。
そのままきょろきょろと見知らぬ部屋を見ている。
「私は……」
「目が覚めましたか?」
丁度部屋に入った俺が声をかける。
俺の方へ、驚いた表情を向ける。
「え?」
「あれ? まだ少しぼーっとしてますか?」
「あ、ああ、いや、大丈夫だ。すまない、私は一体……?」
額を押さえ、何が起こったのか、整理しているようだ。
すぐには思い出せないようなので、説明をする。
「無理に転移魔法を使って、倒れたんですよ。あんな無理、するもんじゃないですよ?」
「! そ、そうだ! 私は探している人が居て、そのためにここまで――」
勢いよくまくし立てるティアナさん。
「落ち着いてください」
「落ち着いてなんていられるか! すぐ近くに勇者様が居るはずなんだ!」
「――ティアナ」
静かな、それでも室内に不思議に響く、幼い声。
「勇者様……!」
その声の主を見て、驚きに身を強張らせたティアナさん。
しかし、すぐにその強張りは解け、安堵の表情と声が漏れた。
「……良かった。本当に、良かった……」
「ティアナ、なんでここに?」
「あんな置手紙だけ残してどこかに行かれたら、不安になるに決まっているでしょう!」
「……ちゃんと、探さなくていいって書いたのに」
少し不満げな表情のフェリンさん。
そんな彼女に、ティアナさんは食ってかかる。
「『わたしがここに居る必要はない。何処かへ消える。探さなくていい』なんて、あれだけで、納得できるわけがないでしょう!」
なるほど。
つまりフェリンさんが悪いのか。
溜息一つ。
「フェリンさん、その手紙はさすがに駄目です。アウトです」
「アレンまで……」
「アウトなものはアウトですよ。それじゃ、まるで死ぬみたいですよ」
「む……」
「次から、もう少し穏便な書き方にしましょうね」
「……分かった」
俺とフェリンさんのやり取りを見て、ティアナさんが不思議そうにしている。
「あの、勇者様、その男は……」
「アレン」
「アレン……?」
名前しか言わなかったフェリンさんに代わり、俺が自己紹介する。
「アルドレイン・アジャスターと言います。フェリンさんは、今は家で生活してもらってるんですよ」
「それでは、こちらに来てから勇者様は、あなたにお世話になったということか?」
「まあ、世話をしたというか、されたというか……」
少し苦笑する俺に、ティアナさんが頭を下げた。
「このような格好ですまないが……とにかく礼をさせてくれ。ありがとう。勇者様を家に置いてくれて」
「い、いえいえ……」
「勇者様。ところで、何故に異世界に来たのですか?」
頭を上げ、フェリンさんに向き直った。
フェリンさんはいつもの無表情で、
「お婿さん探し」
とんでもない爆弾を放り投げた。
「は?」
「だから、お婿さん探し」
「え、えーと、お婿さん、ですか?」
「お婿さん」
「お婿さんって、結婚相手の?」
「それ以外にお婿さんがいるの?」
「いいいいえ、そういうわけではないのですが……!」
この時のティアナさんのリアクションを見て、俺は一つ思ったことがある。
(この人、いい友達になれそうだなー)
彼女の爆弾に対するリアクションとか、なにか通じるものを感じる。
「そ、そのお婿さん候補は……?」
「彼」
びしり、と指さされた方にいるのは当然の如く俺である。
ぎぎぎ、と錆付いたロボットのような動きで、その指に指された俺を女騎士さんは見た。
「なん、ですと……?」
「そこのアレンが、お婿さん候補」
「!?」
あ、駄目なパターンだこれ。
女騎士さん、情報過多で頭からぷしゅーっと湯気出してるし。
「ほ、ホントウなのですか?」
「……らしいです」
「っ!?」
俺の一応の首肯に、さらに愕然とした表情になるティアナさん。
……どうにも、もう一波乱ありそうだ。




