第十四話
いつも通り、フェリンさんと朝食をとって、ソファーで二人そろってごろりとしていた時、
「ただいまー!」
コドクさんが帰ってきた。
「お帰りなさい」
「……おかえり」
ソファーでゴロゴロしたまま、声だけかける。
「ご主人様、折角帰ってきたんだから、顔くらい見せに来なさいよ」
「いきなり旅に出て行っちゃうメイドなんて知りませーん」
「根に持つわねー」
「そりゃあ、妙な入れ知恵だけしてどっか行ったら」
「見に覚えがないわ」
「ご冗談でしょう? 観念して溶鉱炉に放り込まれてください」
表情こそ笑っているが、内心割りとマジで怒っているのである。
「回路接続! 権限行使!」
回路の改造、魔力の変質も既に完了している。
思う存分、魔法を使えるのだ。
「ちょっ!? 汚い! ご主人様! 固定の権限は汚いわよ!」
「うるさい黙れ。――権限行使」
「――そ」
何か言おうとしたが、問答無用。
転移魔法で溶鉱炉にダイブしてもらった。
自業自得なので、まったく躊躇はない。
それに、溶鉱炉程度なら、彼女にとっては熱湯風呂くらいなものだし。
「……ほんとに、溶鉱炉に送ったの?」
「ええ。大丈夫です、死にはしませんから」
少しは凝り……ないよな。
あの人が溶鉱炉くらいで、懲りるわけがない。
「…………」
少し彼女が俺から離れた。
……怖がらせたか。
「大丈夫ですよ。フェリンさんには、何があってもあんなことはしませんから」
「ん……」
安心させるように頭を撫でる。
こうすると、彼女も嬉しがって尻尾を振ってくれる。
「アレン、権限ってなに?」
「権限ですか?」
「ん。魔法を使ったときに、アレンが唱えていた」
どういう意味なのか、気になったようだ。
「そうですね……。まあ、世界の真理ですけど、別に知ったところでって話なんで、お話しますね」
「ん」
「まず、少し回りくどいのですか、魔力の説明から始めましょう」
一息置いて、彼女に説明を始める。
「魔力は、始素と言うものが下位存在に使用できるようになったものです」
「しそ?」
「始めの素と書きます。世界全ての要素を内封した……言わば混沌ですね。それを不完全なものにして、使用できるようにしているんですよ」
「……なるほど」
「で、その始素の量が魔力の量に直結します。始素は尽きても世界が安定のために補充してくれます」
「? 安定?」
「原初の混沌――魔力を用いるというのは、世界に新しい現象を上書きするということになるんです。その時に出てくる、はみ出し、用を成さなくなった欠けた始素――魔力を、魔力を消費した存在は吸収していくんです。ただ、これは非常に緩やかですし、そもそもだんだんこの魔力は世界中に拡散しますので、すぐさま回復するわけではありません。ここら辺の理屈は、身を持って知っているものかと」
「……放っておいても、魔力が回復する理由?」
「はい、その通りです。世界は微弱な魔力に覆われています。場合によっては魔力が集中したまま拡散しないなんて現象もありますけど」
「寝ていたり、休息すると、魔力の回復が早いのは?」
「その方が、魔力の吸収効率が上がりますので、そのせいですね。実際、冒険者――特に魔法も使う人はよくよく休息をとりますけど、これが理由です」
結構話が長い……上に分かりづらくなっているが、それでもフェリンさんは頷きながら良く理解していってるようだ。
魔狼はそもそもの学習能力が高いらしい。
それも少なからず影響しているのかもしれない。
「それで、やっと本題なんですけど、権限とは、魔力を使っての世界への影響権限を指します」
「???」
フェリンさんの表情にハテナマークが飛び交った。
もう少し分かりやすく説明するか。
「つまり、どんな魔法を使えるかってことです」
「ああ、なるほど」
「それで、それを手っ取り早く俺達は権限と呼んでるわけですよ」
「……俺達?」
「そこら辺はあまり気にしないでください。まあ、権限と言っても、ようは魔力内に内封されている混沌の内容と、それを扱う資質、両方揃ってるもののことなんですけど」
「? つまり、魔力はそれを引き起こせるものでも、魔力の持ち主には使えないってこと?」
「そういうことです。まあ、そうじゃなかったら大分世界は面倒になりますけどね」
さっき魔力は欠けた始素だと言ったけど、正確には違う。
始素――原初の混沌の切れ端と言ったほうが、より正確なのだ。
というか、切れ端といえど、世界の元である。
含まれる要素は、常人には把握できぬほどに膨大で、当然それらを完全に全て使えるわけがない。
一般的な生命の短い時間で、それが成せるわけもない。
「権限のこと、分かりましたか?」
「ん、ありがとう」
「いえいえ」
「でも、これって、権限によっては、物を完全に消したり、無から作り出したりも出来るってこと?」
「そういうことです。まあ、さっき言ったとおり、知ったところでって話なので。でも、話す相手には気をつけてください? 人によってはとんでもない情報になりますから」
「分かった」
こくんと、素直にフェリンさんは頷いてくれた。
そして一つだけ、俺に問いかけた。
「もしかして、世界は魔法で作られたの?」
「……そこに辿り着きますか」
真面目だなー。
俺の場合、魔法を使える理屈? それじゃあもっと楽に魔法を使える方法を探そう! だったし。
こうやって深い思考で創世の理屈に至る、なんて、する気にならなかったし。
「その通りです。創造主は、完全な魔力を用いて、世界を作り出しました」
完全な魔力。
それ即ち、始原の混沌。
「というわけで、権限関連のお話はお終いです。詠唱といっても、あれは掛け声みたいなものなので、深い意味はありません」
権限行使! じゃなくても、ファイア! だろうがアイス! で十分なのだ。
単純に、それっぽいことを言って、自分を納得させるようなものだから。
魔法を使うには、自己認識が必要不可欠である。
出ると思わなければ、出るものも出ない。
回数をこなせば当たり前になって、詠唱なんていらなくなるけど、正直そこまでは随分長くかかるし、その頃にはもう癖になってたりする。
俺のも癖だし。
「ありがとう」
「いえいえ、どういたしまして」
知ってることを教えることくらい、別にどうってことないし。
「……あんた、影響ってのを考えなさいよ」
「はい?」
「いえ、もういいわ……」
いつのまにか戻ってきたコドクさんが溜息を吐く。
なんなんだ、そのそこはかとなく頭の痛そうな顔は。
「気前が良いって言うか、ただたんに何も考えてないのよね……ご主人様は」
ちょっとマテ。
いまなんてルビふりやがったこの駄メイド。




