第十一話
「……やっぱり、もう少し……ああでも、これだと接続時のラグがな……」
ぶつぶつ、ぶつぶつ
「となると、接続用の音声パスが必要か……いや、やっぱ魔力放出の抑制だから、回路の構造自体……」
ぶつぶつ、ぶつぶつ
「でも、流石にそこまでいくと手間だな……何か代案を考えるのが多分現実的なんだよな……」
ぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつ……
「いっそ手間も何も度外視して回路全体の見直しと性能の向上を目指すか……だけどだったら魔力の性質を弄るほうが早いか……いやいや、だったらもう両方……推測劣化のデータも乏しいけど……データの計測も兼ねるか……それ以上に蓄積影響の推測データが……侵食率は許容値になるだろうけど……精神汚染の懸念は……改変効率の増減と……法則の干渉も考慮して……」
「…………アレン?」
ぶつぶつ呟きながら脳みそをフル回転させていると、フェリンさんが心配そうに……というか、怯えた様子で声をかけてきた。
「はい、なんですか?」
「その……大丈夫?」
「? ええ、大丈夫ですよ?」
なんでそんな物陰から恐る恐るといった調子なんですかね。
俺、怖いことしてました?
「……何を考えてたの? 魔神でも召喚するの?」
「いやいやしませんよ」
そんなのを召喚するくらいなら、自前で破壊の限りを尽くすほうが手っ取り早いし。
というか、何故魔神?
「俺、そんなに怪しげでしたか?」
「うん……」
まだちょっと、フェリンさんはふるふると震えている。
「怖がらせましたか……すいません、コドクさんにも言われたんですけど、ちょっと目の前のことに集中しすぎると、周りが見えなくなりがちで……」
こうやって小さい女の子を怖がらせちゃうと、気をつけなきゃいけないと思う。
いや、小さいと言ったって、齢百歳を超える魔狼ではあるんだけど、それとこれとはまた別なのだ。
「とりあえず、邪神とか魔神の召喚やってるわけではないので、安心してください」
「なに、してたの……?」
「えーと、回路か魔力の改造の内容と申しますか……」
「…………」
無言ですっ、とフェリンさんが離れた。
「改造……?」
物陰から、とても不安そうな声でそう聞く。
……ああ、そこですか。
確かに人体改造って聞いて、嫌悪感無い方が異常か。
でも、俺はそもそもが触手だから、擬態とかで肉体を人間のものにしてるし、そこまで身体いじるのに躊躇もないんだけど。
フェリンさんもやってるはずだけど、それとこれとは別問題ってことなのか?
……乙女心は複雑怪奇だ。
「とりあえず、|見ず知らずの善良な民間人を捕まえて怪人にしたり(いわゆる○ョッカーなアレやソレ)はしませんので、安心してください」
「アレンがそういうなら……」
物陰からフェリンさんが出てきて、ぎゅーっと俺に抱きつく。
「……怖かったけど、やっぱりこうすれば落ち着く」
やっぱり、乙女心は複雑怪奇だ。
……
「ご飯にする」
「はい、わかりました」
パソコンをとじ、食卓に着く。
「いただきます」
……
食事を終えた。
フェリンさんがてきぱきと食器を片付ける。
「……俺もやる事やりますか」
一つ息を吐き、意識を自身の内面――肉体へ。
回路を接続。
走査を開始――異常なし。
回路の改造を開始。
身体の中で何かが組み変わっていく感覚。
「完了まで……おおよそ三日はかかりますか」
その間、魔法は使えない。
まあ、どうせ使う当ても特に無いから、困るわけでもないのだ。
強いて言うなら、突発的に魔動機士を動かしたくなっても、我慢するしかないことくらいだろう。
これで魔力放出が抑えられて、ついでにフェリンさんも、魔力酔いがぐっと収まるはずだ。
また魔動機士に一緒に乗ったりする時には、出来るだけ迷惑をかけないように心がけていきたいし、必要な改造だ。
「すいません、フェリンさん。今日はもう寝ます」
「調子悪いの?」
「まあ、そんな感じです。暫く少し不調なので、よろしくお願いします」
「分かった」
こくんとメイドロリが頷く。
家事は少し俺より手際が悪いだけだから、問題にはなりそうもないし、料理も不味いものは作らなかった。
自分の部屋のベッドに潜り込む。
回路を改造する三日間、大人しくベッドの主になったほうが良さそうだ。




