第九話
――巨大な人型が、密林を駆ける。
赤と白銀に塗装された、魔動機士である。
本来は 無骨な兵器であるはずのソレらには、あまり似つかわしくない、ヒーローチックなカラーリング。
その手には、以前まで握っていた銃ではない。
ただ何かしらの装置が増設されただけだ。
そう、その機体――かつて〈アサシンホロウ〉と呼ばれた機体には、武器らしい武器が一つも装備されていなかった。
腰の二基のブースターはより大きく改装され、頭部も以前の様な六対の眼ではなく、人の目を模した、ステレオタイプの物になっている。
頭部の四本のブレードアンテナ等はそのままだが、以前とはかなり印象の違う機体になっている。
後頭部からは放熱索がポニーテールの様に伸び、ソレが機体の熱により立ち上る上昇気流に煽られている。
――〈サーヴァント〉。
それが、俺によって好き勝手に改造された、〈アサシンホロウ〉の今の名前である。
……遊びに遊んだ結果、暗殺者だの幽霊だのと言った名前には、どうやっても似合わない機体になってしまったのだ。
今の名前は、どこぞの英霊さん並みにチートだからとつけた名前である。
……外見はARX−8辺りを参考にしているのだが。
能力的にはARX-8っぽいのだが、そのお陰で三分間しか全力での戦闘起動が出来ないという、光の巨人そのままな制約を意図せず会得してしまった。
兵器としては完全に欠陥品の類である。
「駄目じゃないの?」
「いや、魔動機士同士での実戦じゃ無双出来ますけど」
フェリンさんの訝しげな言葉に、笑って返す。
実際、大丈夫なのだ。
三分あれば何機敵が来ようが、十二分に返り討ちに出来る。
それに、全力での戦闘機動が三分間なだけで、待機したりする分には問題ないし、排熱機構がしっかり機能していれば、一分もすれば、また全力で動けるようになる。
……まあ、それでも欠陥品だろうけど。
先日、ついにかっぱらってきた〈アサシンホロウ〉の改造が終わったのだ。
コドクさんが居ないものの、フェリンさんが居るので、早速お披露目しているのである。
お披露目といっても、〈サーヴァント〉で走ったり跳んだりするだけだが。
ちなみに、今居るのは日本ではない。
俺が元いた世界の、秘境と謳われる密林である。
ただ、魔物は俺やフェリンさんにびびって出てこないので、全く戦闘はない。
すんすんと、フェリンさんが匂いを嗅ぐ。
「魔力の匂い、凄い……」
「あはは……」
俺の魔力でなら、本来回路を模した動力炉が必要な魔動機士を、それなしで稼動させられる程のモノだ。
あまりに強く、濃い魔力を他人が吸入すると、所謂魔力酔いになってしまうのだ。
無意識的に漏れてしまうので、いつもはそもそも回路を使わないで対処しているのだが……、今回はどうしようもない。
膝の上でベルトに固定され、密着している彼女には、少しきついか……。
「大丈夫ですか、フェリンさん?」
「ん……ちょっと変な気持ち」
「すいません、そろそろ戻りましょう」
魔力を匂いで感じ取れるほど、鋭敏な感覚を持つ彼女には、魔力酔いは辛いだろう。
ブースターを吹かす。
機体が膨大な推進力により、強引に空中を翔ける。
「帰ったら、少しゆっくりしましょう」
「ん……」
〈サーヴァント〉の狭いコクピットの中、俺は一つ溜息をついた。
回路の調整、もう少ししておくべきだったかもしれない。
面倒くさがるのは性分だが、趣味に誰かを付き合わせるときに向け、ちょっとくらい努力しようと考える俺であった。




