第七話
「アレン、一緒に寝たい」
「あ、フェリンさん。はい。分かりました」
目を擦りながら、フェリンさんが俺の部屋に入ってくる。
彼女にもちゃんと部屋を与えているのだが、いつも俺の部屋で一緒に寝る。
『フェリンが来てから、ご主人様の就寝時間に関しては改善されたわね』
「俺、そんなに駄目な感じでしたか?」
『平気で徹夜を三日四日続けていたのは、不健全なんてレベルじゃないわよ』
「すいません」
刀の状態のコドクさんから、呆れ交じりのことを言われた。
「ふぁ……んぅ……」
フェリンさんが欠伸をする。随分と眠そうだ。
「早く寝ましょうか」
「ん……」
こくんと頷き、フェリンさんがもぞもぞとベッドに潜り込む。
俺も寝ようと、パソコンの電源を落とし、部屋の明かりも落とし、ベッドに入る。
「おやすみ、アレン……」
「おやすみなさい、フェリンさん」
いつも、二人で向き合うような姿勢で眠る。
フェリンさんが甘えるように胸に擦り寄っていく。
一人では感じられない、誰かの暖かさが胸に染みこんでいく。
すぅすぅと、早くも彼女は寝息を立てている。
彼女は、魔狼が唯一愛される、産まれてから育つまでの期間を経験していない。
白い毛並みであるが故に、親に見捨てられたのだから、当然のことだ。
だからなのかもしれない。
こうやって時折、親に甘える子供のような仕草をするのも、人の姿に幼い童女の姿をとっているのも。
彼女は文字通り、子供のまま、何を成せばいいのか、それすらも知らないまま、大人になってしまったのかもしれない。
(全ての運命は千差万別。一つとして同じ物はなく、故に無二の価値がある、でしたか――)
とある知り合いからの受け売り。
誰よりも世界を愛し、誰よりもこの世界の存続を望む少年。
そんな彼が何故世界を愛するのか。その答えが今の言葉だった。
(――ですが、それは人によっては辛いものでしょうに)
いや、それすらも彼は知っているだろう。
その運命に刻まれる負の事象ですら、彼は受け止め、それでも美しいと評しているに違いない。
(……敵いませんね)
薄く笑う。
彼女の小さな身体に手を回す。
少しでも、自分の温度が彼女を暖められるように。
――彼女には、幸せで暖かい夢を見ていて欲しかったから。
……
朝。
「あの、フェリンさん」
「ん?」
「なんで裸なんですか?」
「朝チュン?」
「……なるほど、コドクさんの入れ知恵ですか」
どうせ、「既成事実を作ったって認識させちゃえば、結婚せざるをえないわよ!」とか何とか言ったんだろう。
ベッドの脇を見る。
コドクさんは怒られると察しているようで、既に影も形も見当たらない。
「あの駄メイド……」
見つけ次第、溶鉱炉に突っ込んでやりたい。
それくらいならあの駄メイドはくたばらないだろうし。
「ところでアレン」
「はい?」
唐突にフェリンさん。
「嬉しくなかった?」
「へ?」
「嬉しがったりも、照れたりもしないし、むしろ怒ってるから……」
なんだかシュンとするフェリンさん。
いや、そういうわけではないんですよ。
「嬉しかったですよ。すごく」
うん、これは本音。
可愛い子との既成事実は大歓迎だし。
「ん」
「ただ、こういうのはあんまり良くないので、今後は禁止です」
「ん……」
なんでフェリンさん、残念そうな顔するんですか。
「とりあえず、コドクさんを知りませんか?」
「朝起きたらこんなものが」
「どれどれ……」
彼女から手渡された紙切れ。
見覚えのある字で、なんとも身勝手なことが書かれていた。
『暫く旅行に行きます。二人で仲良く生活するように。家事の心配は無用です。フェリンにしっかりと叩き込んだので、面倒を見てもらってくださいね。コドク』
「あの駄メイド……」
帰って来たら溶鉱炉。
これ決定。
それはさて置き、
「暫く二人、ですか……」
「ん」
「家事は分担してやりましょう」
「え?」
「え?」
「家事、出来るの?」
「出来ますけど」
「え?」
「え?」
何故かフェリンさんがすごいショックを受けている。
「いや、俺だって、得意でも好きでもないですけど、家事くらいは出来ますよ」
「……!?」
えー……。
そんなにショックですか?
「いつもはコドクさんに任せっきりですけど、出来ないわけじゃありませんよ」
「そう……なの?」
「はい」
「…………」
なんだろう、すごい尊敬の眼差しで見られてるんだけど。
「アレン、実は家事も出来るニート……?」
すごい称号みたいに言ってるけど、家事も出来ないニートとか、マジで産廃の類なんじゃないかと俺は思う。
「家事も出来るニーとですよ。というか、それくらいは出来なくちゃ困りますよ」
「コドクがいるから、大丈夫なのかと……」
「最近大人しかったですけど、地味にあの人も好き勝手しますから。なんでも各地に旅行に行って、ついでに呪いの道具を回収してくるのが好きだとか」
「そんな趣味が……」
「今回もそんなノリなんでしょうけど……まったく」
あの人、割と人のことを言えないんだよな。
まあ、今は、
「とにかく、二人で家のこととか片付けて行きましょう」
「ん」
フェリンさんとの共同生活を頑張ろう。




