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魔女見習いと高校生  作者: 珈琲肉
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大丈夫だ、心配ない

「━━ったく、私の魔女としての一日目があいつのせいで台無しよっ!」


地面に転がる小石を蹴飛ばしながら彼女は憤っていた。

それをやれやれといった表情で諌める魔女。


「千夏、工房を譲るからと言っても君はまだ見習いだ。魔女としてはまだまだ認められない。それと志筑君は関係ないだろう」

「なんであいつなのよ?」

「魔力を秘めていたからというのが一番大きいが、彼がこの屋敷に引っ越してきたのも何かの縁かとおもってな」

「結局は"才あるものには祝福を"って訳ね━━」


ちっ、と舌打ちをする千夏の表情は痛々しいまでに悲しげだ。


「私はその言葉は好きではないがね。工房を千夏に任せる以上、彼のように魔力を持った人間が傍に居ることは必要不可欠だ。言っている意味はわかるね?」


言葉を紡ぐ魔女は、普段のような凛とした姿は影を顰めている。


「━━わかってるわよ」


歯噛みするように小さく答えるその返答は、風に呑まれて闇の中へと掻き消える。

二人の間に言葉は無く、静寂が夜の寒さを一層増してゆく。

そんな二人に業を煮やした烏は羽ばたきながら叫ぶ。


「お嬢!そんなことより今は召喚だ!そんな調子じゃ出るのは鼠か魍魎くらいだぜ!」

「なんですって?私の使い魔が鼠か魍魎なはずないじゃない!あんな奴の使い魔なんかよりもっと凄いのを召喚できるわよ!ってか、降りてきなさいよバカガラス!」


へっへーんと、燻る千夏を見事に焚き付けて烏は空を舞い踊る。

その姿を"後で見てなさいよ"と言わんばかりに睨みつけてはみたものの、不安は隠しきれない。


「ねえ、あいつの使い魔━━。エルフだったんでしょ?」

「そうだな、あれには正直びっくりさせられたよ。魔法を間近で見られたのだからね」


今も感触が手に残るかのように拳を握り締める伯母に、姪っ子である千夏は縋る様に抱きついた。


「私、才能無いのかな……」

「そんなことはない、この場所は長年かけて私が魔力を溜め込んだ場所ということもあるし、今宵は満月だ。千夏もきっと最高の使い魔を召喚できる」

「でも、忘却の魔術も失敗しちゃったし……」


胸に蹲る千夏の頭を優しく撫でながら魔女は答える。


「あれは少々緻密な魔力技術が必要だからな、まだ千夏には魔力技術は教えていなかった私も悪い。しかし召喚魔術は違う、千夏の全力でやってみると良い」


"う゛んっ"としゃがれた声で返事をして、千夏は魔女の胸から離れると深呼吸を繰り返し、頬を叩いて気合を入れる。

綾也が描いた魔法陣は既に跡形も無く消え去っており、その場に残る枝を掴み、千夏は魔法陣を描き始めた。

綾也の不出来な魔法陣とは違い、円や星、ルーン文字を見事に組み合わせた魔法陣を描き上げると、周りにドッペルゲンガーの粉骨を撒き、魔法陣の前に立つ。

瞼を閉じ、片手を掲げて詠唱する。


「汝、我が願いに答えし者。我が血を共とし、我が命を掲げし者。寄る辺を欲するなら答えよ!」


呪文を唱えて千夏は掲げた手を握り締める。拳からは鮮血が滴り、煌く魔法陣へと落ちていった。

ボンッ。

先程同様に辺りは突風によって砂埃が舞う。

羽織るローブを盾にして千夏はその場を堪えた。

風も落ち着き砂埃もパラパラと音を上げて落ちてゆく。

しかし、辺りを見渡しても使い魔は見当たらない……。


「また、失敗なの?」


霞む視界で魔女を見つけると魔女は優しい表情でちょいちょいと指を下に向けている。

「え……?」

指差す方向を見てみると、千夏の足元には顔をこすり付けてくるように黒猫がすり寄っている。

その場にへたり込み、溢れ出る涙は重力に逆らえず地面へと落ちる。

千夏は黒猫を優しく抱き上げて"良かった"と小さく呟いた。

エルフを召喚した綾也に対する対抗心は既に無く、自分の召喚が成功したことに何よりの安堵を得ている千夏をよそに、空を舞っていた烏は急降下して魔女の肩へと止まった。


「今夜はやけに珍しいモンが見れる日ですねえ」

「はは、それもそうだな」

「しかし、良いんですかい?お嬢の為に長年溜め込んでた魔力を使い切っちまって」

「良いんだよ。私は千夏を守ることだけを考えていたんだが、あの使い魔を見せられてしまったらな」


"ああ"と納得して烏は空へと羽ばたいた。


「それでは姐さん、あっしは巡回へ戻ります。お嬢と坊主にもよろしく言っといてくだせえ」


そう言い残し、瞬く間に烏は暗闇へと姿を消した。

烏を見送り、魔女は千夏の下へ歩いていく。


「立てるか?」


差し伸べられた手を見つめる千夏は首を横に振る。


「ごめん、ちょっと無理みたい」


"そうか"と一言言って魔女は猫を抱える少女をひょいと抱き上げた。


「どうだった?久しぶりに全力で魔力を使ってみた感想は」

「うん、気持ち良かった」

「それは良かった」


ニコリと微笑む魔女に対して、千夏は俯きながら聞く。


「大丈夫?」

「大丈夫だ、心配ない。今はゆっくり眠るといい」


その言葉に安心して、千夏は目を閉じた。

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