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魔女見習いと高校生  作者: 珈琲肉
13/21

悪魔の囁き

"━━、━━………"


まだ、意識だけははっきりと残っている。

貫かれた腹部からは、今も尚触手を伝って血が零れ落ち、触手が突き刺さった肩と足からは焼けるような痛みで脳を刺激する。

身体は動かせない、まるで力を吸われているかのように血を啜る触手からの痛みだけが、彼の意識を保たせる。

ものの数秒で叩きつけられた現実。一方的な攻撃で彼の決死の覚悟は音をたてて崩れ去った。

痛みのせいなのか、それとも情けなさからなのか、彼の目からは涙が溢れて零れ落ちる。

3本もの触手が刺さり宙に浮かぶ今の自分の姿はきっと滑稽だろう。

まるで死神から"残された時間を後悔に使え"とでも言われているような気分だ。

…あれだけ見栄を張って、エインに命令してまで自分の我侭を通したのがこの結果。


頑張ったところで、無理を押し通したところで、何も変わらなかった。

所詮彼は彼でしかなく、彼以上にはなりえない。

命を投げ出して行った蛮勇は、あまりにも当然の帰結を迎えたのだ。


ならばどうすれば変われるのか━━━


"答えは出たか?"


死神からの囁きが聞こえる。それに答えるように綾也は既に死に体の身体に力を入れた。

身体は動かない、それでも何度でも力を入れる。


"正解だ"


死神がそう告げると、触手はバラバラに崩れ、綾也は地面へと落下する。


「坊主、それで良い。それしかないんだ。」


地面との激突を防いだのは二本の太い腕だった。ヒューヒューと必死に酸素を取りこもうと呼吸する綾也を抱きかかえるように男は立ち上がる。

男の眼前には獲物を横取りされてか憤怒の表情のマンドラゴラ。そんな魔樹をお構いなしに男は語る。


「"変わる"ってのはそうゆうことだ。俺はそうやって"変わった"人間を一人知ってる」

「…ぐも…ヴん………る」


言葉になっていない言葉を返す綾也。


「おう、じゃあ走れ。合図は俺が出してやる」


言われて綾也は地面に深く突き刺さった剣を引き抜いた。

先程まで指一本動かせなかった身体は動く。

身体の震えは止まっている。痛みも既に感じない。見るからに痛々しく身体に突き刺さる触手は邪魔だなと思う程度。まるで自分の身体じゃないみたいだ。

けれど、その身体は綾也の意志と同じく憤怒するマンドラゴラの元へと駆けた。


行く手を阻む無数の触手が襲い掛かる。


"薙ぎ払え"


剣を振るえばその全てを一刀で薙ぎ払う。距離は詰まる、足は動く、握り締める柄には力がこもる。


"跳べ"


大地を蹴れば体重を忘れたかのように身体は空を舞う。真下には怒り狂うマンドラゴラ、再生を始める触手は束となり、綾也目掛けて放たれる。


"ぶった斬れ"


大木と化した触手の束を叫び声と共にぶった斬る。剣は大木を切り裂いて、マンドラゴラの触手を全て斬り捨てた。


マンドラゴラと綾也の距離は既に手が届く場所にまで縮まっていた。

"ギ…ギィ…"と擦れた叫びをあげて綾也に襲い掛かるマンドラゴラ。


"お前を変えた人の名は"


「わがばっ!!ぢなづだああああああああああ!!!」


叫び声と共に振り下ろされる剣はマンドラゴラを一刀両断した━━。



"やれやれ"と、地面に血塗れで横たわる少年見つめてため息を吐く悪魔。

魔術師なら何と引き換えにしてでも手に入れたい"魔法剣"を使い、マンドラゴラの一番厄介な"呪詛の無効化"に加えて、意のままに身体が動く"暗示"まで使ってこの有様。

"━それでもま、及第点ってとこか"悪魔はそう言って少年を抱き上げた。

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