ダイスを始めます
「猫タンを一度吸収してもう一度作り直すか?」
「何で?」
「作品レベルが上がったから性能がアップするぞ? 描くスピードもアップしたからそんなに時間はかからないはず……」
「修復できるうちはこのままでいいよ」
記憶の話もしたが、なぜかしぶる。
後衛でベランダ部隊の猫タンが修復できなくなった時は、きっとこの家はもうなくなっているけどな……。
「あれをもう一度試すか……」
「あれ……?」
「〈中学生〉の職業から変更したくないか?」
「〈ぬいぐるみ使い〉とか? 何だか名前がカッコ悪いな……」
その発想力はどうにかならないものだろうか……。
「〈戦士〉とかの方が強そうだと思うけど……」
「うーん……」
悩んでいるようだから前回と同じく『神官』を描きあげた。
「苦しんでるね……」
「だな……」
紙から飛び出ると、前よりは元気そうだけど、まだまだその時ではないようだ。
経験値は何も増えないだろうけど、吸収しておく。
「夕食にして、寝るか……」
まだ暗くないけど、こういうサバイバル生活をする時は休めるうちに休む。
肉体よりも精神が疲弊する。
「そうだね」
料理を作ってこなかった二人にとって、冷蔵庫の食材は何も調理ができなかった。そもそもガスがない生活で消費する方が難しい。
俺たちの生命線は俺のSP。
「何が食べたい?」
「リンゴジュース!」
食べたい物を聞いたはずだけど、飲みたい物が返ってきた。
これぐらいは普通か……。
ピーーーーーーーー。
「またか……」
「行ってくるね」
夕食を用意する前で良かった。
咲は装備を拾って玄関へ。俺は猫タンを抱えて二階へ。
「いるいる。さっきの鬱憤をぶつけるチャーンス!」
階段を上がっているうちに、玄関を出た咲がすぐに声をあげた。今回は北のようだ。
しかし、この家の玄関は二階まで吹き抜けなので、二階へ行っても、玄関の上の窓には到達できない。
仕方ないから、猫タンを抱えたまま自室へ。
西側、異常なし!
その後、南と東も確認すると、窓の下を兵隊が一体走り索敵していた。
考えている事は同じだったか……。あの隊長は優秀だな。
玄関に戻り、ドアを開けて猫タンを戦いに投入する。
俺は小窓から観戦。
数は残り五体。
これまでの戦いは全員バラバラに目の前の敵を倒していたが、隊長の指示で剣兵一体が囮となり、四体を引き付けている間に全員で一体のゴブリンをボコる。
ゴブリンのHPの五〇が一〇秒足らずで削られていく。
ライフル部隊は整列して一発ずつ確実に当てていた。
これが指揮官のいる戦いか……。
将棋でも、チェスでもそうだが、いろいろな手駒があって戦術って出来上がっているんだった。
ライフル部隊だけ、近接部隊だけでは足りないな。
「今度は何にするか……」
「終わったよ~」
「にゃん!」
「おう。どうだった?」
「兵隊たちが強くなって、戦闘が楽になったよ」
主に隊長ぐらいしか増えていない……。
もともと咲が近接をしていたんだ……。
数は圧倒的に増えたけど……。
事実は言わない。言っても意味がないからな……。
「お兄ちゃん、ポストに紙が入ってた」
咲が俺にA四サイズのチラシを渡す。
紙には二五組の順位が載っているようだ。
この変な世界に結構な人数が輸送されているな……。
何の前触れもなく、頭に直接ソプラノボイスでアナウンスが流れる。
【これから一八時のダイスを始めます】
「なんだ急に?」
チラシの中央にはプラスチックドームに入ったダイスがある。どういうわけか、チラシを揺すってもダイスは動かない。まるで三Dの映像のよう。
六面ダイスが四つか……。
勢いよくダイスがジャンプして飛び跳ねる。スーパーボールを思い出す跳ね方だ。
「私たち何番?」
咲に言われてやっとこのダイスの意味がわかってきた。
最低四(全部が一)から最大二四(全部が六)までの順位に何らかのアクションが発生するのか?
俺たちの順位は……。
「二〇位の『四條家』だろうな……」
自分たちの順位のところを触ると、文字が変化して『参加人数不明』と出た。自分たちのはわからないのか? 見えちゃうと生存確認に使えちゃったりするからな……。
ちなみに一位の『女子寮』は参加人数が七四人だ。
こういうのって、ゲーム感覚で言うと、参加人数を同じにしてフェアにやるものじゃないのか?
サイコロの一個目が『五』、二個目が『六』
やべぇ……。大きい数字ばかりきた。
三個目が『四』
「これって当たる方がいいの?」
「最初は様子見で外れて欲しいな……」
四個目が『一』
【一六位『佐藤家』にボスが解き放たれます】
「は?」
初日でボスとか……。無理ゲーだろ!
『佐藤家』の参加人数を急いで確認した。四人。
俺と咲は紙を注視していたため、その瞬間を目の当たりにする。
アナウンスが流れてから、たった三〇秒しか経っていない。
一六位の欄が消滅した事により、俺たちが一九位に繰り上がった。
まさか……死んだ?