隊長
「お風呂に入りた~い」
また居間が結露しそうだが、カビる程じゃない……。それよりも咲の精神安定の方が大事だ。あれもダメ、これもダメじゃすぐにサバイバルで根を上げる。
「せっかく温かいからな……。ゆっくり疲れを癒してくれ」
「ありがとう」
俺は居間から自室に移動した。
「何から始めようか……。することが多すぎて困る」
兵隊を描きながら考える。
ライフルは本来近接武器ではない。
銃と剣がくっついたライフルがあったよな?
近接は近接で作るべきか?
剣と盾を持った兵隊を四体描く。
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作品レベル三
〇/三〇
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よし、レベルが一個上がった!
次の兵隊は今までよりもさらに強化されているはずだ。
新型の兵隊には笛と指揮棒のような警棒を持たせる。
「これから外の兵隊も含めて君の指揮下におく。家を守ってくれ!」
「マスター! お任せ下さい」
敬礼してからピーッと笛を吹いて隊長を先頭に規則正しく歩いて行く。
あれ?
「待った」
隊長は機敏に体をこちらに向け、聞き返してくる。
「マスター、何ですか?」
「場所を教えてないのに、わかるのか?」
「マスターの力となった兵隊の知識が受け継がれております!」
おー。さすが、作品レベル三!
会話が普通に成立するだけじゃなく、知識を受け継いだ。
「では、頼んだ」
ピッと一笛吹いてからまた歩き出す。
隊長だけは階段を両足ジャンプではなく、片足ずつ人間のようにトントントントンと下りる。
「すげぇー」
俺はその動きに思わず拍手をしてしまった。
居間の広さがなかったため、模造紙で描けなかったが、戦力アップしたことには間違いない。
「咲~」
「な~に~?」
「確認したい事があるから部屋に入ってもいいか?」
「絶対に漁らないでね!」
「おう」
俺はお邪魔しますっと小さく呟いてから部屋に入る。
ぬいぐるみ部隊が抜けた空間がスッポリ空いているけど、まだまだたくさんいる……。これを全部作るのか?
俺はこれまで玄関、親の部屋、俺の部屋っと外を見た。
そして南の窓は咲の部屋にある。
※元の世界の方位より。
俺はカーテンを開けて外をチェックする。
「あった……」
今までの三方向には、咲が昨夜言っていた荒れ地がなかった。
どの方向も草むらだったのに、この方角だけは地面が露出している……。
家から僅か二十メートル離れた地点に少し窪んだ幅十メートルほどのクレーターがあり、その幅をキープしながら家とは反対側に草の生えていない道が伸びている。
しかし、家らしき造形物は見当たらない。完全に孤立しているのだろうか?
ピーーーーーーーーッ!
「咲~敵っぽいぞ~」
「キッチンに移動してるから、お風呂をしまって~」
はっ?
俺は言われた通りに居間に行って、檜風呂を仕舞う。
「拭く時間を短縮できた!」
天才か! バケツの水が紙に吸収されたように、咲の体についていた水滴は模造紙に戻ったようだ。
汗は? 一緒に模造紙に吸収されたのかな? あとで浴槽のお湯を綺麗に塗り直しておこう。
「んじゃ行ってくるね!」
「おう」
咲が廊下を走って玄関に着くと、家の扉が開いた。
「マスター! ゴブリン五体を仕留め終わりました!」
隊長が敬礼をしながら報告して、玄関に何かを置いてまた外へ行った。
「はやい……。お兄ちゃん……、いったい何体の兵隊を作ったの……?」
「指揮官一体と近接部隊を四体。それに今までいたライフル部隊が四体」
「猫タン――私たち出番なかったね……」
なぜか仲良く肩を落とす。
そんなに戦いたかったのか?
律の部隊
隊長(笛と警棒)一体(作品レベル三)
兵隊(ライフル)四体(作品レベル二)
兵隊(剣と盾)四体(作品レベル二)
咲の部隊
猫タン(魔法使い)(作品レベル二)