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猫タン

「五体同時か……」

 さすがに苦しそうだな。

 俺は居間に戻って、模造紙に猫が魔法のステッキを持っている絵を描く。

 サイズは俺の腰の高さぐらい。

 二足歩行の猫で咲が持っていたぬいぐるみの中の一体だ。

 三角帽子をかぶって、ローブをまとっている。

「咲のピンチを助けてくれ!」

「任せるにゃん」


 歩き始めて二歩。

「あわわわわわわっ」

 左足でローブの裾を踏んで前にベタッと倒れた。

 顔をあげて頭を振ると今度は三角帽子がずれて、目が隠れる。

「急に真っ暗にゃん」

 やべー、頼りないのを作ってしまった。こんなの何体いても役に立たんぞ。


 俺は帽子を直して、立たせてやる。

「ありがとにゃん」

 お礼はいいから、早く助けに行ってくれ……。

 再び歩き出して二歩で倒れた。

「ローブが少し長かったか?」

 絵に描いたローブのフワッと感が現実では重力に負けて、宙に浮かないため、それが全部床に集まっている。残念だが足がきちんと見える長さまで、ハサミで急いで切り揃えた。今度は踏もうとしても踏めない。はず……。

 でも、この猫なら何もない所で転けそうだ。

「ありがとにゃん」

 簡単な会話ぐらいならすでにできるようだな……。


 どうせ魔法使いは後衛なので、猫掴みをして二階のベランダに連れていく。階段を上るとか高等過ぎてできるとは思えない。

 猫を完成させているうちに、ゴブリンが五体から六体に増えている。きっと倒す量よりも援軍の量の方が多いのだろう。

「行くにゃん」

 小さい火の玉が(ステッキ)の先端から出現し、キャッチボールぐらいの速度でスーッと飛んでいく。

 飛んでいる間は、頼りない火の玉だったけど、ゴブリンにぶつかると一気に燃え上がった。

 マッチに火をつけたような点火。

 おいおい、この猫すげぇな。帽子がずれて直すが、すぐにまたずれる。魔法以外はどんくさいの一言なんだけど……。


 咲たちも突然の発火、炎上に動きを止めたが、俺の方を振り返った時に横にいる猫を見て、咲のテンションが上がった。

「お兄ちゃん大好き!」

「おう。死ぬなよ」

 囲まれていたせいで、HPが減っている。

「何としても生きて帰って、モフる!」

 猫の参戦で形勢は一気に逆転。


 ただし、レベルが低いのか、すごい魔法使いじゃないのか、その両方なのか、五発撃ったら急にヘロヘロになった。なるほど、MPが空だ。

 杖を支えにしてギリギリ立っているヨボヨボお婆さんがここにいる。

 あ、後ろに倒れた。杖を手放して、起き上がるのを諦めやがったぞ……。

「うーん。今度はMPを回復するアイテムか……。SPを回復するアイテムも作れたら無限ループで最強なんだけど……」

 作っていないが、そう都合よく物事は進まないだろう。HP回復程度なら作れる気がする。

「全部倒せたよ~」

 咲も段々と戦いに慣れてきたな。


 俺たちは一度居間に集合する。

「うひょ~。猫タンが動いてる!」

 装備を投げ出して、猫タンを抱き締めた。

 咲……、中校生にもなってぬいぐるみに名前を付けているのか……。

「なにか文句あるの?」

 俺の視線に気が付いた咲が逆ギレを始めた。猫タンを抱き締める腕にも力が入り、猫タンがダブルタップでギブアップをしている。あ、手の力が抜けて杖を落とした。


「それよりも怪我はないか?」

「何度かかすったかな……。兵隊が一体犠牲になっちゃった」

 生き残った兵隊がボロボロになった兵隊の手と足を持って、担架のように運んでくる。お前たち器用だな……。

「ご苦労様」

 犠牲になった兵隊の経験値が俺に吸収された。

 どうやらこれだけではレベルは上がらなかったようだ。

 用が終わると玄関に撤収していった。


「絆創膏でも作れば回復できそうだよな……」

「あー、それでよろしく」

 絆創膏を模造紙にデカデカと描く。

 タオルに温くなった檜風呂のお湯を染み込ませて、体を拭いていた咲が俺の作品にケチをつけてくる。

「お兄ちゃん……、それはさすがに使えないと思うな……?」

「バスタオルみたいに一気に兵隊も巻けば、みんな一回で回復できるかもしれないだろ?」

 一枚ずつ出したのでは咲の分以外にも兵隊の分で合計五枚必要だ。

 SPが切れたら、俺たちの命は終わる気がする。

「なるほど……。兵隊にも効果があるかな?」

「それも検証の一つだ」

 一度兵隊を呼び戻して五人まとめてグルッと一巻きにした。

「絆創膏に巻かれるって初めてだね」

 接着面に関わらず、輪の内側にいた咲と兵隊たちはそれぞれHPが回復する。イメージと設定次第で、できるらしい……。

 兵隊たちは元気になったら、敬礼して居間から出ていく。玄関で兵隊の声がするので見ると、自分たちだけで肩車をして入口のドアを開けた……。

 俺と咲はその姿を見てギョッとする。学習能力でもあるのか?

 ちなみにドアはプッシュプルハンドルタイプで、取っ手を押すと開く、老人向けの取っ手だ。中から外は出やすい。


 元ぬいぐるみの猫タンを本気で抱き締めて居間でゴロゴロしている咲の横で俺も寝る。寝ている体勢が今のところ一番SPの回復がいい。

 元ぬいぐるみと言ったが、元祖の猫タンは猫タンで居間の片隅に実在する。もちろんそちらは動かない。


 冷蔵庫の食料はもう一日ぐらいなら持ちそうだ。

「これからどうする?」

「ぬいぐるみをコンプリートする!」

 俺が聞きたかった『これから』とはずれた回答がきた。

 咲はリンゴとぬいぐるみがあれば、精神崩壊をせずに済みそうだ。俺はもともと家から出ていないので、電気、ガス、水道が復旧すれば大して支障はない……。

「食器を洗ってくるね」

「檜風呂の残り水で洗ってから、最後に飲料水用のタンクの水ですすいでくれ」

「お兄ちゃんもお風呂の水を運ぶのを手伝ってよ……」

「俺は頑張ってる咲のために模造紙に大きなリンゴでも描こうかな?」

「わかった。頑張ってくるね!」

 バケツで汲んで床に水をポタポタ滴ながら……、片手で軽そうに運んでいく。

 中学生女子が扉を蹴り壊せたのは、能力補正だな……。咲がこんなに力持ちだとは思いたくない。

「もう一度、紙に戻せたらいいのにな……。『檜風呂』よ……。紙に戻れ!」

 檜風呂が模造紙に描いた時のように紙の中に戻った。

 マジ?

「あ~~~。せっかく運んだのに――バケツの水が急になくなった~」

 キッチンの方から咲の叫びが聞こえたので、飛び散っている水分も可能な限り回収した感じか?

「檜風呂を模造紙に戻せちゃったぞ……」

 紙の中の檜風呂は最初に描き入れた湯気がなくなっている。

 まさかと思い、ステータスを確認してから湯気を描き込んで、再び出してみる。

 ドスンッと大きな音を立てて再登場。

「おー。()()になった……」

「お兄ちゃん! これすごーい! どんなマジック?」

「一度戻して修正して出すとSPが一消費する。でも、作品のカウントは増えないようだな……」


 これはこれで新しい発見だ。

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