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世界の理

 翌朝。

「お兄ちゃん、お兄ちゃん。起きて」

 咲が俺の体を揺らして起こす。

 見慣れた天井なのに部屋が妙に明るい。昨日の夜に外を確認するため、カーテンを小さく開けてそのままだった。

「ん~? なんだよ……。まだ()だぞ?」

 寝るのが遅かったから文句を言っているわけではない。俺は夜行性だ。朝は起きない。

「ちょっとのんきに寝てる場合じゃないって。外から発砲音がするの!」

「発砲音?」

 うーん。発砲音ってなんだっけ……? 寝起きで頭が働かない。

 耳を澄ますと、何かが破裂したようなパンッと遠くから音が聞こえる。

「あっ、おもちゃの兵隊か! そういえば昨日寝る前に……」

 音の聞こえる間隔はそこまで多くない。二〇秒に一回ぐらいだ。

 俺はベッドから飛び起きて一階に向かう。玄関の扉に手をかけてグッと力を入れて開けようとしたけど――その前に足が震えた。

「はいはい。避けて」

 後ろを追いかけてきた咲に任せる。

 外が明るいと急に怖くなった。たまに夜中は出かける引きこもりがいるが、俺は夜でも出歩く事がない。その結果、玄関に俺の靴はなく、お母さんのサンダルを履いてみたのだが……。

「すまん……」

 あぁ、情けない……。


 咲は手に包丁を握って、気合いを入れると扉を開ける。

 服装は慌てて起こしに来たのか、まだパジャマ姿だ。

 昨日と同じでまずは顔だけ出して外の様子を確認する。

「なんか兵隊がピストルを発砲して倍ぐらいのサイズの緑色の小鬼みたいな――あ、ゴブリンだって。ステータスが表示された。それと戦ってるんだけど……」

「ゴブリン……?」

「ちょっと加勢してくるね」

 サッと靴を履いて、扉を開くと勢いよく飛び出していった。

『地震、雷、火事、親父』が苦手なのに、ゴブリンは平気なんだな……。

 俺は開かれた隙間から外を見ようとしたが、咲の後ろ姿しか見えなかったので、閉まった扉の郵便受けの小窓から様子を窺う。


 兵隊は二体しか生き残っておらず、一体はすでにスクラップにされている。

 近くには他のゴブリンはいない。


――――ステータス――――

 名前 ゴブリン

 レベル 一

 HP 二八/五〇

――――――――――


 もうかなり手負いのようだ。

 兵隊がピストルの弾を当てるとHPが二ずつ減っている。しかし、攻撃を避けながらなので、うまく当てられていない。咲も兵隊に合流してトライアングルフォーメーションを組んでゴブリンを攻撃するが、どういうわけか咲の包丁ではダメージが通らない。

「なぜだ? 兵隊は攻撃ができるのに……」

 そこで俺は一つの仮説が出来上がったため、急いで居間のファックス用紙を取り出して『包丁』を描く。

 出来上がった包丁を片手に小窓から声をかける。

「咲! 戻ってこい」


 俺の呼びかけですぐに戻ってきた咲は自分の無力さを(なげ)く。

「うーん。全然ダメ……」

「こっちを使ってみてくれ」

 俺は絵で作った包丁を渡す。

「わかった。やってみるね!」

 今度の包丁はどうやらゴブリンにダメージが通る。

 切った部分から緑色の液体が噴き出した。

 なるほど……。元の世界の常識は使えても、あの世界の武器を()()()()使うことはできないのか……。

 俺は咲と交換した包丁にバツ印をつけておく。

 咲の攻撃は三ずつ与えている。ピストルよりも包丁の方が強いのか……? 傷口の面積だろうか? それともこれが咲の攻撃力?

 程なくしてゴブリンは倒された。

 HPがなくなったゴブリンはキラキラと光って消滅した。


 咲が足元の何かを拾って戻ってくる。

「最初はもうダメかと思ったよ……」

「俺も兵隊を作っておかなかったら、すでに死んでいた可能性があって驚いた……」

「兵隊さんが一体やられてたよ……」

 咲が大事そうに両手で抱えて、兵隊の胴体を回収してきた。頭はなくなり、見る影もない。

「ご苦労様」

 俺が壊れた兵隊に手をかざして声をかけると、兵隊は光の玉に姿を変えて俺の胸に吸い込まれた。

「何があったんだ?」

「吸収したの?」

「まさか経験値を……?」

 俺は手負いで戻ってきた兵隊二体も体内に取り込む。


――――ステータス――――

 名前 四條 律

 種族 人間

 性別 男

 素質 普通

 クラス 絵師

 レベル 二


 HP 一三/一三

 MP 〇/〇

 SP 二二/二四


 筋力 二

 体力 一

 素早さ 二

 かしこさ 三


 残りポイント 八

――――――――――

 作品レベル二

 三/二〇

――――――――――


「レベルが上がってるぞ……」

「私がゴブリンにトドメを刺したのに……。まだレベルが一のままだ」

「つまり、寝ている間に不審なゴブリンを何体か倒してくれていたって事か……?」

 兵隊は思っていた以上に優秀だった。

「っと安心している場合じゃないな。今のうちに武器と防具を新調しよう」

 きっと元の世界のパジャマじゃ防御力はない。

「可愛いのがいい。どうせなら……」

 タタタタタタタっと階段を上って、一分もしないうちに戻ってきた。

「このぬいぐるみ達を護衛に付けて!」

 五体のぬいぐるみを抱えている。昨日見た暗がりの部屋には大量のぬいぐるみがいた。厳選されたのか?

「いや、おもちゃの兵隊で……」

「付けて!」

「……はい」

 咲の勢いにあっさり負けた。実際に戦うのは俺じゃない。気持ちよく戦ってもらうためには仕方ないか?


 俺の部屋では狭いので居間で作業する。

 同時には描きあげられないため、優先順位の高い順番から作っていく。

 まずはA四の紙を対角線でフルに使ったショートソード。刀身の素材は『銅』だ。

 最初は説明に『鋼鉄』って指定したら、フニャフニャの剣が出来上がった。俺の作品レベルが足りない素材のようだ。出てきた瞬間に理解できた。

 どうやらゲームのように一つずつステップアップが必要なのだろう。


「先に兵隊を作ってもいいか?」

「必ず作ってよ!」

 五体の中から猫のぬいぐるみを両手で突き出して言ってくる。

「……おう」

 兵隊を五体。

 武器は小型のライフル銃にした。ピストルよりも威力がありそうだ。

 俺が描いて、咲がネジを巻く。

「これよりこの家の警備を命ずる!」

「「「「「イエッサー!」」」」」

 やっぱり作品レベル二の兵隊は返事ができるようだ。

「玄関はこっちですよ~」

 咲が外まで案内していった。兵隊は統率された兵士のように上げる足が揃っている。結構優秀?


 次は腹ごしらえだ。昨日の夜に氷と一緒にクーラーボックスに移動しておいたお弁当を漁って、腐る前に食べる。

「お兄ちゃん、ピーマンとニンジンを交換してあげようか?」

 フォークに刺して、すでに一つ目を俺のお弁当に移動済みだ。俺はピーマンを咲のお弁当に戻す。

「好き嫌いをするな。親がいないからって……」

「お父さんなら、残しても許してくれるもん!」

 食べるというよりは、一気に飲み込んだ。


 二人で向かい合って朝食を食べていると、また発砲音が鳴り始める。

「ちょっと行ってくる」

 咲は勢いよく立ち上がり、食卓の椅子を倒した。

「あっ、ごめーん」

 謝っただけで、椅子を放置したまま、居間の床に転がしていた剣を拾って家を飛び出していく。

「やれやれ……」

 俺も様子が気になるので、椅子を直してから移動する。玄関の小窓から外を見るが、どうやらそう都合よく家の正面ではないようだ。

 二階に移動して俺の部屋の窓から外を見る。

「いたいた」

 今度は二体のゴブリンのようだ。

 何も持っていない膝ぐらいの小人に等しい相手。

 ショートソードとは言え、剣を持つ咲の方が単純に間合いが広い。

 それに今度の武器は一振りで六もダメージを与えられるようだ。

「楽勝だな」

 俺は昼間の外を久しぶりに見た気がする。

「んっ?」

 俺は窓を開けて、咲に叫ぶ。

「向こうの草むらにまだ隠れているぞ」

「オーケー」

 この窓も何年ぶりに開いたことやら……。


 そんな事よりも、思っていた以上にゴブリンが徘徊しているのかもしれない。

 俺は盾の準備に取りかかる。考えてみたら昨日廊下に消しゴムの盾が落ちていた……。あれがこの世界の盾か……? なら武器は鉛筆? いやいやいや……。

 ショートソードが作れたんだから、木の盾も作れるだろう。剣は短いから軽そうに振っていた……。振る……?

「咲~、ステータスって振ったか?」

「振ってない!」

「力に三つぐらい振ってみろ」

「こういうのって一度振ると戻せないんじゃないの?」

「確かに、そんな気がする」

 意外と鋭いな。


 ゲームによっては再度ステータスを振り直す事が出来たりもするが……。

 俺は絵を描くからSPが欲しいけど、どのステータスに振るとSPが増えるのかわからない……。直接SPに振れればいいのに……。

 MPはかしこさだろうから、分かりやすくていいな……。

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