これが作品レベル?
「では、一階に行ってみよう!」
「懐中電灯を装備したら急に強気になったな」
「もちろん!」
どんどん一人で階段を下りていき、俺が一階にたどり着くと、もう一つの懐中電灯を見つけて俺に渡してくる。
階段を下りた玄関前でペンライトを消して、持ち替えた。
「これから、私は外に行くけど――何かあったら助けてね?」
「お、俺に家から出ろっと?」
「もう~。緊急事態なんだよ?」
「包丁でも持って行けばいいんじゃないか?」
「こんなお兄ちゃんで、頼りない……。昔はもっと…………」
どこか遠くを見るように、感慨に耽っている。
「今の一言で報酬のリンゴがなくなりました」
「ああああああああああああ。待って待って。大好きなお兄ちゃんと一緒にいれて、咲は幸せ者だな~」
慌てて俺の体に抱きついてスリスリし始めた。
咲の頭を撫でておく。
「そうだろう、そうだろう」
「はぁ~。それじゃ包丁を取ってくるね」
一連の無駄なやり取りが終わったところで、俺の体から離れて、キッチンに向かっていった。
戻ってきた咲はすれ違う時に左手に持った懐中電灯で自分の顔を下から照らし、右手の包丁を顔の横でキラーンと演出する。
「フンッ」
「あまり脅かすなよ」
口角が上がっていて、実に楽しそうだ。
こんな状況じゃなければお化け屋敷感覚でもっと楽しめたかもしれない。
咲が持っていたのは刃渡り十五センチの家庭用の物で、うちでは一番長い丈夫な包丁だ。
刃物だし……、一応武器だよな?
「私は今からもっと怖いところに行くかもしれないんだからね!」
「死んだら…………。手だけ合わせてやる」
「死んでも、マジで部屋だけは漁らないでよ!」
「それは当然しない」
さすがに年頃の妹の部屋を……。部屋を……? 漁る……?
「とりあえず家を一周だけしてくる」
ガチャっと玄関のドアを開けて顔を出すと、キョロキョロ辺りを見渡している。
「本当に草原だわ……。自然の匂いがする」
妙な事になったな……。
咲の後ろ姿を見送った後で俺は家の中をチェックする。
電気はもちろんアウト。これは俺の部屋を出る前に諦めていた。
ガスコンロを捻るが、チチチチチッと点火用の火花が出るだけで、火がつかない。
蛇口を開いても、水が供給されていないようだ。
電気、ガス、水道が全滅。
電気が通っていないため、冷蔵庫の中身が数日で腐るのは目に見えているだろう。
幸か不幸か料理が得意な母親ではなかったので、出来合いの物がいくつかあった。
今使っている懐中電灯も電池が切れたら終わりだ。
家ごと輸送されたサバイバル生活というところか……。
「ただいま」
玄関から声がしたので、廊下に移動した。
「早かったな……。どうだった?」
「草原だけかと思ったら、土が露出している荒れ地のような場所があったよ」
はいっと言いながら、手のひらに乗せていた物をこちらに渡してくる。
慌てて手を広げて受け取り、ライトを当てると、茶色い土と言うよりは、ねずみ色の砂だ。
都会育ちで農業の事は一切わからないが、作物を育てる上で、適した土ではない事ぐらいはわかる。
「荒れ地があるなら、家があるんじゃないのか?」
「月明かりで見渡したけど、だだっ広いだけに見えたよ」
「山とか川は?」
「山は遠くに見えたけど、川までは……」
最後までは言わずに、顔を振って否定した。
暗がりで川を発見するには音だけが頼りだ……。
大量の水が流れていない限り、人間の耳では聞き取れない。
「そうなると水分補給が鍵か……」
「何の話?」
「SPが自動回復するようだから、食料は絵で出せる。お風呂は我慢かな……」
さっきチラッとステータスを確認したら、SPが一だけだが回復していた。
食料を出すのに消費しても時間とともに回復するなら飢え死にすることはない。
「そうだね。贅沢は言えないよね……。今夜のお風呂が最後ならもっとゆっくり入れば良かったな……」
「まだお湯を抜いていないから入ってきてもいいぞ?」
「覗かない?」
上目遣いで確認してくる。
「覗かない、覗かない」
頭をポンポンと叩く。なぜか少しだけ寂しそうな顔に見えたのは懐中電灯の光のせいだろう。
「本気でどうしよう……。最後にシャワーを浴びたいけど、お湯出ないんでしょ?」
「出ないな」
「なら、諦める」
「そうか……。今日はリンゴでも食べてゆっくり寝てくれ」
「うん。そうする」
部屋に戻って、リンゴの絵を五回連続で描き上げる。後ろでは描き上がったリンゴからシャリシャリ食べていた。
「咲の餌が完成したぞ」
「ありがとう!」
餌って部分には抵抗ないんだな。いくら大好物でも試作品と合わせて七個も食べれば飽きないのか?
咲は嬉しそうに抱えて自分の部屋に帰っていった。
あとは冷蔵庫の中身を避難させるクーラーボックスを描く。
奥行きを上手く使って大きくする。
氷は製氷機のを使えばいいよな?
っと描き終えたところで気が付いた。
「一回にたくさん描いたらSPの消費を抑えられないのか?」
ポリタンクに入ったミネラルウォーター。
試しに蓋を開けて飲んでみる。
可もなく不可もなく普通の水だ。塩素臭くないから水道水より美味しい。これを飲んだせいでお腹を壊すなら、リンゴはもっとアウトだよな……。
「そうだ。夜の見張りに兵隊でも描いておくか……」
某アニメの四次元ポケットから出てきたおもちゃの兵隊をイメージして、ピストルを持った兵隊を描く。
赤い帽子、赤い服、青いズボン、黒い靴っと……。
サイズはA四サイズギリギリの大きさ。
ミネラルウォーターのように中に入っているなら全体として一つでカウントするけど、二体同時に描こうとしても無理だった。
そのためピストルは兵隊の一部分として扱われるが、兵隊同士は別個体のようだ。
合計三体作った。
――――――――――
作品レベル二
二/二〇
――――――――――
なぜ俺はわざわざネジ巻きタイプの兵隊を作ってしまったのか……。
動力源はもっと未来発想でも良かった気がした。
ネジを巻いて三体を並べて命令する。
「君たちには寝ている間の警備をしてもらう!」
「「イエッサー」」
良かった……。設定で『自らの意志で動く。主人の命令は絶対』としたから、応答があった。
でも、一体は敬礼をするだけで、返事がない。
残り二体は敬礼をした上で、返事をしている。
最初の一体は作品レベル一。後半二体が作品レベル二。
これが作品レベルの差……?
もし、これが作品レベルの影響だとすると、急いで上げる必要が出てくる。
道案内をするために先に部屋から出て、階段を下りた。
作品レベル二の二体は両足を揃えてピョンピョンとジャンプして一段ずつ下りてくる。おもちゃが勝手に動いててなんだか怖い。ホラー映画のワンシーンのようだ。
そして、いつまで経っても全然下りてこない作品レベル一。
懐中電灯を階段の上に向け、照らしてみた。
赤ちゃんが階段を下りるようにうつ伏せになり、右足を階段の縁にかけて、左足で次の階段を探すようにフリフリ足を振っている。
可愛い……。このトロさがいい。
ずっと見ているわけにもいかないので、下りるのに苦戦している一体は俺が一階まで抱えて下ろす。
三体そろったところで、家の扉を開けて、外に待機させた。
俺は玄関の施錠をして、扉のなくなった自室に戻って眠る。
こんな状況だ。扉は致し方ない犠牲と思うことにした。
どうせ家の中には咲しかいない。
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