表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/9

窓の外

 輪リンゴを先に食べ終え、リンゴに戻った咲が顔を上げる。

「うまっ!」

 どうやら味の違いで二度目の感動を味わっていたようだ。

 食べ比べる相手がリンゴ? では、糖度三〇のリンゴも不憫でならない。


「レベルがある以上、上げ方が存在すると思うが、どう思う?」

「ゲームみたいに何かと戦うの?」

 シャリシャリ食べながら小首を傾げた。

「それはわからない」

〈絵師〉が絵を描く事なら……。

「〈中学生〉だから――勉強とか?」

「うっ! 教科書は学校に置いてきたよ……」

 中学生が置き勉とは――世も末だ。俺もしていたから、人のことをとやかく言えた義理ではないが……。

「勉強道具を取りに行くところからか……」


「お兄ちゃん、カーテンを開けてもいい?」

 いちいち聞くのには理由がある。俺が引きこもりで家の外に出ないから、太陽を全然拝まない。

 カーテンは基本的に年中無休で活躍している。

 俺には外を見る習慣がなかったせいで、変な現象が起こっても外を見るって発想には(いた)らなかったな。

「……いいぞ」

 咲はカーテンを少しだけ開け、隙間に頭を突っ込んで窓の外を見た。

「あー。お隣さん――ないね……」

 続いて俺も久しぶりに窓の外を見る。

 すぐ横に建っていたはずの白い壁の家が見えない。

 それどころか見渡す限り何もない。

 月の光に照らされた草原地帯?

 風に揺れる草が月光を反射している。


「いつから月は二つになったんだ?」

 窓の右上と正面と夜空に浮かぶ月らしき物が二つに増えていた。

 俺の記憶では一つだ。もう一つは金星? 違うな。夜中に見えるはずがない。

「さっきから? 記念に写真でも撮っておく」

 カシャッと、どこかマイペースな感じ……。

「普通はもっと慌てないか?」

「大好きなリンゴが食べられるなら、怖い物なし!」

 カリッとかじり、リンゴを持ちながらピースをして笑顔を見せる咲。何年ぶりに妹の心からの笑顔を見たんだろう……。月光で照らされた顔は非常に大人っぽく見えた。


「そういえばお父さんと、お母さんは?」

 こんな事態になったのに、一階からは何も聞こえない。

「はぁ~。今日は結婚記念日で泊まりで温泉旅行に行ってるよ。言わなかった? お兄ちゃんが行かないって言うから私も連れて行ってもらえなかったんだよ?」

「うーん。聞いたような気がするけど、正直今日の日付すら怪しかったからな……」

 結婚記念日ということは今日は五月三〇日か。

 ポフンッと胸に頭を預けて甘えてくる。

「もしかして二人だけかな……?」

「どうだろう。とにかく夜のうちに少し家の内外の調査をしておくか……。俺が中で咲は外な!」

「はいはい。終わったら美味しいリンゴを出してよ」

「おう。特別丁寧に描いてグレードを上げてやる」

 俺が右手を広げて立てると、咲はパチンッとハイタッチをしてから俺の腕にしがみついた。

「暗いところが怖いです!」

「さっきリンゴが食べられるなら、怖い物なしって……」

「気にしない、気にしない」

 俺が高校を中退するまではいつも咲がベッタリで仲が良かった。小学校高学年までは『お兄ちゃんと結婚する』が口癖でよく親を困らせていたものだ。

 ところが、中退してからは俺が全然部屋から出ないため、あまり顔を会わせる機会はなかったが、咲は今も変わらず、お兄ちゃん子でいてくれたらしい。

 一緒に飛ばされた相手が咲で本当に良かった。


 まずは妹の部屋に向かう。

 開かれた扉から中を覗くと、ステータス表示の影響なのか、色々情報が流れ込んでくる。

「二年ぶりぐらいで部屋の中を見るのに、理由が懐中電灯って……」

 俺は部屋の入口からペンライトで部屋全体を照らす。

 咲は携帯の内蔵ライトで手元を照らしている。

「さっきの揺れでいくつか物が落ちてるよ……」

「とりあえず、直すのは後でいいだろ」

「そうだね。懐中電灯ってどこだったかな……」

 ぬいぐるみの間に手を入れて、手探りで探していた。

 俺の位置から見えるだけでも三〇体以上のぬいぐるみがいる。

「…………あった!」

 パチッと灯りを付けると、薄暗かった咲の部屋が明るく照らされる。

 キャンプで使うごっついタイプの懐中電灯だ。

 お辞儀をしているぬいぐるみがいくつかあった。咲が言ってたのはきっとコイツらの事だ。さっきの地震の被害者たちだろう。


 廊下を引き返して階段に向かうと、俺の部屋の入口にポスターを丸めたような長さと太さで先のとがった鉛筆と持ち手のあるA四サイズの消しゴムが落ちていた。

〈中学生〉の職業用のアイテムか?

 これで勉強すると能力の上昇に補正が入るとか?

 ないな……。でかすぎてとにかく邪魔なので、俺の部屋に避けておいた。

 読んで頂きありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ