第捌話 『可愛い物好きの妖怪、刹那の桜。』
「いたた…。しみるよー。」
「こらこら、動いたら余計に痛くなるぞ。」
俺はボロボロになったユエの消毒をしていた。
「・・・はい、終わったぞ。」
「わ〜、黒って意外に上手ね。」
「ん、まあよく包丁で切っちゃうからな。こういうのには慣れてる。」
「えへへ、ありがとう。」
その時ユエは初めて笑顔を見せてくれた。
「・・・やっぱそうやって笑っている方が可愛いぞ。」
「え?そうかな?」
「ああ。桜花の言う通りだ。笑顔は大切だぞ。」
そう言われてユエは顔が赤くなる。
「あら、消毒はもう終わったかしら?」
ドアの向こうから桜花の声が聞こえた。
「そうだけど、本当にお前もしなくていいのか?」
「心配いらないわ。終わったなら部屋から出てくれるかしら?こんな血の付いた服さっさと着替えたいしね。」
俺はため息をつく。
「はぁ、分かったよ。」
俺が出てから数分後…。
「キャー!かわいい!」
桜花の叫び声が聞こえる。
「うわ、中で一体何が…。」
「うん、この服も似合うわね…。これもどうかしら?おお、なかなかキュートね!」
「い、いつになったら終わるのかしら…?」
桜花はユエにいろんな服を着せ替えさせて興奮している様子。
「あいつ前から可愛いものにこだわっているけど・・・。可愛いもの好きなのか?」
「そうよ、だって妖怪でも女の子なら可愛いものは好きなもんでしょ?」
「あはは…、そうですか。」
俺は苦笑いをした…。
「やっぱこの服がいいわね。これにしましょ。」
そう言って二人はやっと出てきた。
「うふふ、どうかしら?」
桜花はいつも通りの服だが、ユエはゴスロリのような服になっていた。
「う、うわぁ・・・。」
「何よその顔。お気に召さないようで?」
桜花は俺を睨みつける。
「い、いえ。なかなか似合ってますよ。(こええ・・・。)」
「黒も喜んでるみたいよ。良かったわね、ユエ。」
「うん。」
「・・・喜んだ覚えは無いんだがなぁ。」
その後、俺は部屋に戻る。
「ユエも馴染んできたみたいだな。・・・無理矢理っぽいけど。」
「うん、結構楽しいわよ。まさかここまで楽しいなんて思ってなかったわ。」
ユエは静かに微笑む。
「一人より二人。二人より三人の方が楽しいのよ。」
その時、俺は大きなあくびをした。
「・・・そろそろ眠くなってきたんだが、場所はどうするんだ?」
「私はソファーの上でいいわよ。ユエちゃんは?」
とうとうちゃん付けになっていた。
「黒が消毒してくれたし、そろそろ元の場所へ戻るわ。」
「ああ、気をつけろよ。」
──────。
「それじゃあ、おやすみ。」
「ええ、おやすみなさい。」
こうして長かった一日が終わる事となった。
その時──────。
誰もいないホテルに一人の女性がやってきた。
「情報によるとここにヴァンパイアが・・・あら?」
彼女は床の焼け跡に気付く。
「───先を越されてしまったのね・・・。残念だわ。」
『また何処かで会いましょう。刹那の桜よ・・・。』
彼女はそう言い残し、去っていった。