第伍話 『ヴァンパイア、そして哀れな妖怪の生き方』
「おまたせ〜。」
笑顔で桜花が出てきた。ヒラヒラした装束で。
「おま・・・そんな服装でいいのか?」
「だってこの方が動きやすいからね。さっきのや着てないよりマシだわ。」
「おいおい…見えちまうだろ…。」
俺は顔を赤らめて小声で言う。
「もう出るわよ。そうそう、これを渡しておくわね。」
桜花は俺の手の上に何かをのせる。
「これは・・・!」
あの時のナイフだ。柄の模様も同じである。
「使う時になったら言うわね。さあ、ついてらっしゃい。」
そう言って桜花は先に行ってしまった。俺も追いかける。
「おっと、待ってくれよ!」
歩いていた二人だが、桜花が突然止まる。
「ここね。」
それはホテルだった。
「ここなのか?」
「うん、間違いないわ。来るまで泊まっていこうかしら。」
「…マジか。」
お金が無い俺は首を落とす。
二人はホテルの部屋に入る。
「まったく、うちじゃなくても泊まるところがあるじゃないか。」
「こんな遠い場所行くのめんどくさいし、ここじゃ着替えが出来ないでしょ。」
「ははは、そうだよなぁ…。」
俺は苦笑いをした。
「ん・・・?」
「あら、どうしたの?」
「なんかいやな気配が…。」
あまりの気迫に、片膝をついてしまう。
「・・・もう来たのかしら。」
「・・・今回はここね。」
白髪の少女がホテルの前に立つ。
「・・・あら?どうやらおまけが二人もいるみたいね。いいわ、一緒に始末してあげる。」
少女は微笑んだ後、ホテルの中へゆっくり入っていった。
その瞬間、桜花は目つきを変える。
「来たわね。黒、貴方の気配は正解だったみたい。」
俺はゆっくり立ち上がる。
「う・・・分かった。」
二人はエレベーターで降りる。
「奴の狙いは三階だわ。強引にショートカット出来るみたいだから、早く行かないとまずいわね。」
「なぁ、敵の妖怪ってどんな感じなんだ?」
「そうねぇ〜顔は見たことは無いけど、魂とか別に興味ない種族みたい。たとえば・・・。」
『ヴァンパイア、とかね。』
「・・・見つけた。」
少女はドアを突き破る。
「きゃあ!誰!?」
部屋の中にいる女性が声を上げて驚く。
「さぁて・・・いただこうかしら。」
少女は女性の方にゆっくり近づいてくる。
「待てッ!」
その時、黒と桜花が来た。
「な、なんとか間に合ったみたいだな…。」
「黒、あの白髪の少女の寿命が見えるかしら?」
俺は少女の方に目を集中させる。
「これは・・・!」
彼女の寿命を見て驚く。300年は軽々と超えていたのだ。
「分かるでしょう?これが昔の妖怪の生き方よ。死に恐れた哀れな妖怪の・・・ね。」
「貴方が那雪 桜花と、七刹 黒、ね?」
「あら、そうよ。永遠奏界のバランスを保つという仕事を任されている。とても大切な仕事なのよ?」
「私は『ユエ・ナナリー』。ユエでいいわ。意外とめんどくさそうな仕事してるのね。まあいいわ。貴方の血も欲しかったところよ!」
そう言ってユエは桜花に飛びかかってきた。
「甘いっ!」
桜花は見切ってユエを軽々と投げる。
「きゃん!いたた…。」
「あら、結構可愛い顔してるわね。笑顔が大切よ?」
桜花はうふふ、と笑ってそう言った。
「つーかヴァンパイアを投げるなよ。ああいう体型してるのにかわいそうだぞ。」
「いいの、死にはしないから。」
「くそー痛いじゃないの!」
「あらあら、とことん可愛がってあげるわよ?」
今度は廊下まで投げ飛ばしてしまった。
「あはは、可愛くてお人形さんみたいだわ。」
「・・・遊んでやがるな。」
横にいた女性は状況が読めないみたいで、慌てていた。
「もー怒った!もっと広い会場へ招待してあげるわっ!」
そう言ってユエは爪で床を切りつける。床は粉々になりユエは下へ降りて行った。
「おいおい、お人形は流石に怒るだろ。」
「大丈夫よ。ロビーに向かったみたい。」
桜花は思いっきり別の話に切り替えた。
「…人の話を聞けよ。まあいい、どうする気だ?」
「もちろん、彼女の切りつけた床から飛び降りるわよ。」
「え、結構高そうだぞ?」
「私にしっかり掴まっていれば大丈夫。」
俺はホッとした。
「じゃあ行くわよ。と、お嬢さんはそこで動かずにいてね。」
そして二人は穴から飛び降りて行った。