第参話 『刹那の雪花』
「黒、起きろー。」
「ん・・・?」
目を覚ました時にはもう昼休みになっていた。
「お前、朝からずっと寝っぱなしだったぞ。大丈夫か?」
「あ、ああ。ちょっと頭痛くてさ。」
「そういえば、朝から元気ないよね。」
美香が俺の目の前に顔を近づける。
「何か気になることでもあるの?」
そう言われた瞬間、俺は黙り込んでしまった。
困った月と美香は顔を合わした後、
「まあとりあえずお弁当を食べようよ。七刹君のそんな顔は見たくないから。」
「・・・。」
ゆっくり顔を上げる。
「ね?」
美香は俺に笑顔を見せてくれた。
「・・・ありがとう。少しは落ち着いたみたいだ。」
「まあそう言うわけだ。皆で楽しく飯を食おうぜ!」
───放課後。
俺は桜が沢山並んでいる坂の上を歩いていた。
「精一杯生きている・・・のか?」
風で揺れている桜を見てそう言う。
「俺も・・・この桜の様になれるのだろうか。」
心の中でそう悟った。
その時、一人の女性が来た。
「生を望んでいるのかしら?」
「・・・ああ。だがそう望んでいても死からは免れない。」
女性はニヤリと笑う。
「あら、ひとつだけ方法があるわよ。」
「ん…?」
その瞬間、ポケットからナイフを取り出し俺の体に突き刺してきた。
「かは…!?」
体から血がだらだら出てくる。
「大丈夫、死にはしないわ。少し眠っていてもらうわよ。」
俺はショックで気絶してしまった。
──────。
「・・・はっ!!!」
俺は目を覚ます。あたりを見渡すと見知らぬ部屋、夕方になっていた。
「ようやく目覚めたわね。」
目の前には例の女性がいた。
「お前ッ!一体俺に何をする気だ!!!」
「あはは、あんな嘘で油断するのがいけないのよ。まぁ貴方には少し協力して欲しいことがあるの。」
女は高笑いをしてそう言った。
「何で俺が…?」
「見た所、貴方の眼には不思議な力が宿ってるみたいだしね。」
こちらの眼を見てそう言った。黒は首を傾げる。
「確かにそうだが…。こんな力をどう使う気だ?」
「永遠奏界のバランスを保つことよ。」
俺はもう呆れたような顔をした。
「だから…それって俺必要なのか?」
「いいのいいの。寿命が見えるというのは私にとっては都合がいいの。」
「3回も「いいの」言うな。」
俺はどうでもいいことにツッコミを入れる。
「ふふふ。さてそろそろ日が落ちそうだし、そろそろ行くわよ。」
「どこへ?」
彼女はピク、と固まる。そして困った顔でこう言った。
「んーと、えと・・・。家はどこ?家族は?」
「・・・あの坂のすぐ下だ。家族はいない。」
「じゃあ決まりね。れっつごー!」
「まてーい!なんで俺の家なんだよ。」
「他に泊まる所はあるのかしら?」
キッパリ返された…。
「うー仕方ない…。」
「うふふ、ありがとう!」
笑顔でそうお礼を言った。
「・・・性格と違って可愛い顔してるんだな。」
「ん?何か言った?」
「いや…。そういえば、刺された傷がなくなってるんだが。」
「あら?刺した後、貴方が勝手に気絶したの。」
彼女は冗談が混じったような笑いをした。黒は呆然とする。
「ほらほら、ぼーっとしてないで行くわよ。」
「ちょっと待て、さっきから聞きたかったんだが…。」
『あんたは何者なんだ?』
彼女は立ち止まって数秒目を閉じた後、こう言った。
『私の名前は「那雪 桜花」・・・ただの妖怪よ。』
4月のあの日・・・俺は境界をさまようことになる。