第拾漆話 『タダノヨウカイ』
昼休みを終えた後、俺は自分の机に座った。
「・・・ん?」
俺の机の中に何かの手紙が入っていた。内容は、
今から屋上へ来てくれ。
君に見せたいものがある。
期限は昼休みが終わるまで。
そして言っておくが決して天崎を連れてくるな。
その二つが約束できない場合は美香の命が無いと思え。
このように書かれていた。確かに美香がいないと思ったら、人質に取られていたようだ。俺はすぐに教室を出て、屋上へと向かった。
屋上へたどり着いた時、目の前に一人の男子と体を縛られて気絶している美香がいた。
「手紙を読んで来てくれたのかい?黒君。」
「てめえっ!美香を解放しろ!」
「おっと、見せたいものがあると書いてあっただろう?終わってからだ。さあ、こちらへ来てくれ。」
俺はゆっくりと男子の方へと近づいていく。
目の前に来た時、男性は坂に植えられている桜の方へと指差した。
「私の名は『志乃』。あの桜の寿命が見えるかい?」
俺は言われた通り、開眼して桜の寿命を見る。日付は6月を指していた。
「凄いな…6月を指しているぞ。」
「そうだろう?次に、前見たときの日付は覚えているかな?」
黒は4月に見たときのことを思い出す。その時の日付は・・・4月の週末だったはずだ。
そう、桜の寿命が延びているということだ。
「!! ・・・前より延びている!?どういうことだ。」
「日に日に生命力が増加している、ということだよ。『永遠』と称すと良いかな。」
永遠と言えば桜花が託したナイフもそうだ。だが今回は違うタイプと言ったら良いだろう。
妖具は寿命というものが存在しない、絶対破壊不可能の物質だ。だがこの桜は寿命が存在している。しかし減ることがない、逆に増えている、これはそういう『永遠』と言ったところだろう。
「これは誰かの手によって実行されている。誰かがあの桜に生命を分け与えているのだ。黒君、知りたいかい?」
「え・・・?」
迷いの選択肢を突き付けられた。今日朝の桜花の言葉を思い出す。貴方にはまだ知る必要がない…と。それに美香の命が掛かっている。桜花には悪いが、美香の為、そしてこの世界についてもっと知りたいと思った為「yes」を選択しようとした。
その時。
「黒、こんな所で何をやってるのかしら。」
突然桜花がやって来た。まるで俺がここにいると分かっているみたいに…。
「後なんでそこに美香がいるのかしらね?美香ならさっき私と喋っていたわよ。」
それを聞いた俺は驚いた。志乃は舌打ちして顔つきを変える。
「ふん・・・。俺はこいつに真実を伝えようとしただけだ・・・。」
そこにいたはずの美香が砂となる。そして周りの景色が歪み始めた。
「それが私にとっては余計だって言ってんのよ!」
怒りの桜花は炎を体中に纏い、志乃に向かって突進する。
「────ふっ。」
当たる直前に志乃はその場から消えた。桜花の背後に現れる。
「桜花ッ!後ろだ!」
志乃は雷鳴の剣を振り下ろす。桜花は素早くガードをする────が。
ブシュッ!
剣はガードをすり抜けて、桜花の体を切り刻む。
「がッ・・・。」
「無駄だ。この屋上は私によって別の空間へと支配された。この空間上では貴様の攻撃全てを無効化にする。」
桜花はその場へと倒れてしまう。それを確認した志乃はこちらの方に顔を向ける。
「全ての真実を伝えたかったが、こうなってしまったら貴様にはもう用済だ。討命死眼と「縛手奏葬」だけ残して死んでもらおう。」
「くっ・・・。」
何処にも逃げ場はなく、身構えることしか出来ない黒。志乃は剣を構えて切り掛かって来た。だが───。
「黒、逃げて!」
「桜花!?」
俺の目の前に桜花が現れた。剣は深く桜花の体に刻み込まれた…。
「お…桜花ー!!!!!!」
ドサッ
急所をまともに喰らっている。もう助かりそうにもないほどだ。
「ふん、バカな奴め。自分の命を犠牲にしてまでパートナーを守るとは…な。 非常につまらない。私はここで失礼しよう。」
「・・・。」
志乃は剣を収めて、倒れている桜花を通り過ぎていく。
「ぬ?」
志乃の動きが急に止まる。
「か、体が…動かない…?」
足下をよく見ると、地中から鎖が出てきていて、志乃の足を縛っている。
『私をここまで本気にさせたのは初めてだわ。』
突然地面が割れて、無数の鎖が現れる。と同時に、桜花が立ち上がったのだ。
「お、桜花…?」
「何ィ・・・。確かに死んだはずなのに!」
無数の鎖は桜花の体、手から出て来ていた。本気なのか目の色は真赤に染まっている。
『私の本気、とくと味わいながら死ね!』
そして無数の鎖は志乃に襲いかかる。
「があぁぁ・・・!!!」
志乃の体中に突き刺さる。地面は、鮮血の真っ赤な血で染まっていた。
『嗚呼、刹那の桜よ。今宵は何色に染め上げられ、何に恋し、散っていくのかしら────。』